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何時となく、世界は良くなっている。人々は長く生き、健康的だ。多くの支援を受けていた国は、自給自足になった。この進化を聞いて、あなたは喜ぶかもしれませんが、多くの人が世界はどんどん悪い場所になっていると勘違いしているのです。世界が、貧困や感染症を撲滅できないと考えているのは、間違いです。だから私たちは今年、このような進化を遅れさせているいくつかの根拠の薄い「神話(誤った通念)」について言及させて下さい。ーー ビル・ゲイツ


ゲイツ財団は毎年、世界的に見た問題に関するレターを作成しています。

そんな中、今年は例年と異なるタイプで、ゲイツ氏がこれらの問題にまつわる社会の固定概念(神話)について深く書かれていたので、長くなりますがここで全てご紹介します。

*以下テキストは翻訳を中心にしています。1人称はゲイツ氏です

神話1. 発展途上国の貧困は無くならない

私は、特にアフリカについて多くの場所で、これを聞きました。検索してみると、「なぜ先進国はより成長し、途上国は貧しいままなのか」というようなタイトルの本を多く見ます。

幸運にも、これらの本はベストセラーにはなりませんでしたが、基本的な前提は間違いです。事実は、所得と他の人々の生活水準を測る指標は、世界中どこでも増えている傾向にあるのです、もちろんアフリカも。

しかしなぜこの神話はここまで深く言われ続けてきたのでしょうか?

まずは世界を見てみましょう。半世紀前、世界は3つに分かれていました。アメリカと私たちの西欧、ソビエト連邦とその連合国、そしてその他。私は1955年に生まれ、先進国と呼ばれる国で育ちました。

私たちが知っている限りでは、この”その他”は、発展途上国と言われ、貧しい人、学校に行けなかった人、行っていない人、若くして亡くなる人、たちが多くいました。何の望みも無く、貧困層に居座る他ありませんでした。

2035年までに、途上国と呼ばれる国は無くなる。

統計はこれをよく表してくれます。1960年、ほとんどの経済大国は西洋にありました。アメリカの一人あたりのGDPは約1万5千ドル、アジア・アフリカ・南米はこれよりもっと低く、ブラジルは約2千ドル、中国は928ドル、そしてボツワナは383ドルでした。

数年後、私はこの格差をこの目で目にします。メリンダ(ゲイツの妻)と私はメキシコへ1987年に旅行に行き、そこでの貧困に驚きました。そこにキレイな水道管は無く、人々が毎日井戸への長い道をバイク、もしくは歩いている光景を見ました。

そして今日、この光景は全く違うものとなっています。市内の空気はロサンゼルスのものと同じくらいキレイになっており、高層ビル、新しい道路、新設の橋などもたくさんあります。

まだスラム街や貧しい人々は存在しますが、その数は私たちが初めてメキシコを訪れたときよりもずっと少ないです。

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1986年のメキシコ(左)と2011年のメキシコ(右)

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1969年のナイロビ(左)と2009年のナイロビ(右)

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1978年の上海(左)と2012年の上海(右)

これらの写真は、強烈なストーリーを表現しています。世界の”貧困の絵”は、私が生きている間に完全に変化しました。1960年から、中国の一人当たりの所得は8倍にも増え、インドは2倍、ブラジルでは5倍、そして天然資源が豊富なボツワナでは30倍にも増えました。

そしてこれは、この変化を国単位ではなく、人単位で見た場合のグラフです。

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“途上国は貧しいままだ”という神話に対する一番簡単な答えは、貧しいままではない、という事実です。途上国と呼ばれていた多くの国は今では新興国とと呼ばれ、1990年から貧困層の数は半減しました。

しかし、これはまだ10億人の貧困層を残すことになります。しかし、途上国と先進国という言葉の使い分けを今は意味をなさず、世界が劇的に変化した、ということには変わりありません。

いくつかの”途上国”と言われてきた国は、”発展した”と言われるほど成長したと言え、発展できなかった国は実際に発展していません。そして、ほとんどの国は中間です。そのため、国を低所得、中間所得、高所得、に分けて考えることがスマートなのです。

アフリカの一人当たりの所得は、サブサハラで増え続け、他の国でも同じです。1980年代の累積債務危機で少し下がりましたが、そこから60%以上増加し、1998年には約2千ドルまでにもなりました。そして現在、過去5年間で成長率が一番早い国世界トップ10のうち、7ヶ国はアフリカからです。

ヘルスと教育業界でも、アフリカは大きな成長を遂げました。1960年以来、サブサハラの女性の平均寿命は41歳から57歳へとのびました。子供の就業率も、1970年の40%から75%に今はなりました。

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もちろん、これは国ごとによって異なります。エチオピアの一人当たりの所得は800ドルですが、ボツワナな1万2千ドルです。ケニアの首都のナイロビと、ケニアの農村でもその格差は歴然としています。アフリカは54ヵ国あるのです。

私は、この予想は現実的だと思う。2035年には、世界に貧しい人はいなくなることでしょう。ほとんどの国が、中間所得国、もしくは高所得国になっています。国々は、隣国の成功した国から学ぼうとします。新ワクチン、効率的な農業方法、テクノロジーの使い方などです。巨大な人材市場は、新たな投資を引きつけます。

いくつかの国は、紛争や政治などで遅れをとることでしょう。そしてこの格差は大きな問題です。

しかし、多くの国は自給自足となります。70%以上の国は、今の中国の一人当たりの所得より多い所得を得ていることでしょう。

これは素晴らしいことです。私が生まれたとき、ほとんどの国は貧しかったです。しかしこの現実が私が生きている間に変わるということは、驚くべきことだと思います。

多くの人は、多くの国の所得が増えても、世界の問題の多くは解決されないだろう、と言うかもしれません。これは本当で、私たちはより安価で、地球に優しいエネルギーを開発しなければいけません。私たちは、糖尿病などの所得が増えると起きる病についても考え直さなければいけません。

しかし、今後より多くの人が良い教育を受けることで、彼ら彼女たちの手でこれらの問題は解決されることでしょう。開発アジェンダを達成に少しでも近づけることが、人々の生活を向上させる最良の方法でしょう。

神話2. 外国の援助は、大きい無駄

あなたは、先進国の途上国支援について数少ない”悪い”ことを書かれた記事を読んできたかもしれません。援助金が無駄に使わる、ということです。昨年、イギリスの新聞に、国民の半分以上が支援金を減らすべき、という政策に賛成したのも無理はありません。

このような記事は、途上国で実際にこのような援助金がどのような用途で使われているのか、ということが書かれていません。

私とメリンダが14年前にこの財団を創設した際、私はこれらの政府や団体のプログラムのインパクトをこの目で見ることができました。

私たちが、人々の寿命が伸び、より健康的になり、貧困層から抜け出している人々みるのは、この政府の援助金のおかげでもあるのです。

私は”援助金(対外援助)の意味が無い”という誤った通念に懸念を抱いています。これは政治家に妥協を許し、つまり救われる命の数が減る事、も意味するでしょう。しかし現実は、多くの国が自給自足できるようになってきているのです。

これらの批判について言及したいと思います。もちろん、援助金だけが貧困や病気に対抗するツールではなく、先進国は市場解除や農産物への助成金をストップさせるなどの政策転換も重要になってきます。

全体的に、援助金は素晴らしい投資で、我々ははこれをもっと進めていくべきです。これはもっと多くの命を効果的に救い、私が神話1で話したことの基盤を作り上げています。

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世論調査員が、「アメリカの国民に政府予算のどれくらいを途上国への援助金として使うべきか」、という質問を投げかけると、大抵の答えは「25%」です。イギリスではもっと少ない「10%」と言う人が多いです。

ノルウェーは、世界で一番援助金を多く支出している国ですが、ここでは予算の3%以下、となっています。そしてイギリスは、1%以下、です。

アメリカの1%の予算は300億ドル(約3兆円)です。このうち、おおよそ110億ドルは、ワクチン、蚊帳、家族計画、HIVエイズ対策などに使われ、残りの190億ドルは学校建設、インフラ整備などに使用されます。

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私は政府の途上国への援助金は大事だと考える。賛成か反対か。

さらに、この予算支出の全体的なインパクトを見ます。私は、ドナー(援助者)が1980年からヘルスの分野で寄付したお金を合計しました。

そして、この数字を、同時期に救われた子供の命の数で割りました。すると、子供一人につき5000ドル(約51万円)以下になるのです。5000ドルは高額に見えますが、アメリカ人一人を数百万ドルとアメリカ政府は計算しています。

そして、健康的な子供は”生きる”ということ以外にも何かする、ということを忘れないで下さい。彼ら彼女たちは学校へ通い、働き、長期的にはその国の経済発展に貢献していくことでしょう。だから、対外援助はやる意味があり、やりがいがあるのです。

政府援助の問題の一つに”汚職”があるでしょう。援助金が盗まれたり、無駄に使われ、命が逆に奪われることもあります。我々は、これらを撲滅し、一ドル一ドル全てがしっかりと当事者のために使われるべきだと思っています。

イリノイ州の7人の知事のうち、4人が汚職で刑務所に入れられましたが、私の知っている限り、誰もイリノイ州の学校を閉鎖したり、高速道路を封鎖するべきだ、などと言っていません。

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そしてもう一つの援助金に対する批判は、援助依存、でしょう。一途上国が援助金だけに頼り過ぎ、経済発展の障害となっている、という話です。

しかしこの論争にはいくつかの間違いがあります。まず一つは、これが新しい学校の建設などのために政府に送られた援助、などの区別がついていない、ということです。

1960年代にアメリカがアジアと南米に送った、農業システムの効率化のための援助金は、先進国に頼る率を下げました。依存しなくなったのです。高収量品種の開発、緑の革命のためにアフリカに送られた援助金は、国々がより多くの食べ物を生産し、先進国依存しなくなっていっています。

二つ目は、援助金から脱却した国を忘れている、ということでしょう。既に援助金にほとんど頼っていない国はたくさんあります。ボツワナ、モロッコ、ブラジル、メキシコ、チリ、コスタリカ、ペルー、タイ、モーリシャス、シンガポール、マレーシアなどです。

韓国は朝鮮戦争後に多額の援助金を受け、いまは一切依存していません。インドはGDPの0.09%が援助金ですが、1%だった1991年に比べてて確実に減少しています。

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1960年に生まれた乳幼児は、18%の確立で5歳の誕生日を迎える前に死んでしまっていました。しかし今日、これは5%に減少し、2035年には1.6%になるとの予測も出ています。

これを達成するためには、研究者も政府も、世界が共に助け合うことが必要になってきます。

これらを全て踏まえた上で、私たちは援助金が必要かどうか、という討論を終わらせ、援助額を増やし、どのようにすればより効果的に使えるか、について考えるべきです。

ドナーはお金を送るだけでいいのでしょうか。援助金を受け取る側は、どこにヘルスクリニックを建てればいいのでしょうか。

すでに援助金でで成功した人たちは、そのストーリーを他の場所で共有しているでしょうか。これは我が財団がこれまでの大きな支援で学んだことの一つになっています。

私は、ヘルス分野で、救える命が救われていない、世界の格差は受け入れがたいと思ってきました。

神話3. 命を救うことは人口過剰につながる

「人口論」を説いたトーマス・マルサスは、食糧供給が人口増加に追いつかずに世が終わる事を予測しました。冷戦時、アメリカの政策エキスパートは、飢饉は途上国を共産主義に転移させる、と言いました。人口の管理は一国の政策となり始めました。

そして、ゆっくりと世界は女性がどうすればそれぞれの人生を進んでいくことができるのか、という方向に行きました。これは良いことで、我々は貧しい人々に投資することで将来を持続的にすることができるでしょう。

幸いにも、開発業界でレッセフェール(なすに任せよ)は意味が無い、ということは証明されています。しかし、人口増加速度が早い途上国ほど、死亡率が高いのも事実です。そして、この多くが女性の場合は多いのです。

アフガニスタンを例にとってみましょう。ここでの乳幼児死亡率(5歳になるまえに命を落とす子供の数)はとても高いです。アフガニスタンの女性は平均でで6.2人の子供を生んでいます。

この結果、10%のアフガニスタンの子供たちは長く生きられないのに、国の人口は増加しており、3000万人から2050年には5500万人にまでふくれあがると言われています。つまり、高い死亡率は人口増加を止めないのです。

より多くの子供たちが長く生きると、両親はより小さな家族を持とうとします。タイの事例で考えてみましょう。1960年から、乳幼児死亡率は減少傾向にありました。そして政府が家族計画(ファミリー・プラニング)に力を入れ始めた1970年頃から、出生率が下がり始めました。

たった20年の間でタイでは、平均6人の子供を持っていた時代から2人になったのです。今日のタイの乳幼児死亡率はアメリカと同じくらい低く、タイでは一家族平均1.6人の子供を養っていることになります。

下のブラジルのグラフを見ると、同じことが言えるでしょう。乳幼児死亡率が下がるにつれて、出生率も同時に下がり始めているのです。私はここに人口成長率も追加し、より多くの子供たちが長く生きる事で、人口成長率のスピードが下がったことを表しています。

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この出生率の減少が引き起こす死亡率の減少は、世界の多くの国で見られています。サブサハラアフリカと南アジアを除いたほとんどの国でこの変化が見られました。

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出生率が下がった国

これらの事実を踏まえ、私は持続的な世界はマルサスが考えているものよりも楽観的だと考えています。

子供たちがきちんと健康的に育てられ、下痢・マラリア・肺炎などの防げる病気から守られれば、将来はもっと予測可能になります。両親は、”この子供は長く生きるだろう”という理念のもと決断しているのです。

死亡率は、出生率に影響する一つの要因だと思います。例えば、女性の社会進出(結婚した際の年と教育レベル)も非常に重要です。早くに結婚した女性は、早くに妊娠し、結果的により多くの子供を持つ事につながります。学校もやめ、様々な必要知識をを学べる機会を失います。

先日エチオピアで新婦の皆さんと長く話をしました。すると、そのほとんどが平均11歳の時に結婚しており、自分の子供には違う道を進んで欲しいと願っていました。しかし、避妊などの知識はあまり持っていませんでした。

女性が結婚を遅らせ、その分学校で勉強することで、全てが変わります。30の途上国で行なわれた最近の調査では、学校に行かなかった女性は平均して、学校に行った女性より3人も多い子供を生んでいることが分かりました。

女性に権利(エンパワー)、知識、スキルを与えることで、彼女たちの将来に対する考え方は変わります。

そして、忘れてはならないのが、人口増加がもたらす相乗効果です。1980年代のアジア経済の急成長で、東南アジア全域で出生率は激減しました。やがて、労働人口が増え、人口増加により労働力が増え、経済が成長していきます。

同じく、子供の数が少ないため、政府と両親はより多くの額を子供たちの教育とヘルスケアに投資することができ、長期でさらなる経済成長が望めます。

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しかし、これらはただ起きる、のではありません。政府は正しい政策を提示し、これらの人口変動が作り出した新たな機会をアドバンテージとして使うことが大事なのです。

子供を救うことは、人口増加につながりません。これは実際のところ真逆なのです。人々が健康的に生き、平均した生活水準が保たれた社会は、持続的な世界に導いてくれるのです。

私たちはより良い世界をつくるだめに、人々に自由を与え、彼ら彼女たち自身がつくりあげることのできるパワーを生み出すのです。

未来を考える

もしあなたが普通のニュースを毎日見ているのならば、世界がより悪い方向に行っている、と勘違いしてしまうかもしれません。私とエリンダは、毎年600万人以上の子供たちが尊い命を落としていることが悲しいです。

しかし、私たちはこれらの数字が実際はこれまでで一番低い、ということをモチベーションに日々問題解決に取り組んでいます。私たちはこれがずっと下がり続けていくために活動するのです。

私は、これら三つの大きな誤った概念を正すことができたと思います。友達に悪い、間違ったニュースを見ないように行ってみて下さい。政治家に命を守ることの大切さを教え、援助金を効果的に今後も使っていくべきだと行って下さい。

私たち全ての人間が、貧困という文字が無くなる世界をつくり出すチャンスを持っています。人の人生の価値を信じているあなた、今この世界で起こっていること以上にエキサイティングなことはありません。

[2014 Gates Annual Letter]


途上国の教育課題を若者の力で解決する

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