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認定NPO法人ACE・白木朋子さん

みなさんにとって、はじめて「働く」経験をしたのはいつでしょう?大学生でしょうか。それとも高校からでしょうか。いずれにしても、小学生から働いていたという人は極めて少ないはずです。

ただ、そうではない国もあります。途上国では今もたくさんの子どもたちが学校に通わず、「家族のために」と幼い頃から働いています。頼もしく、明るく彼らを見て、驚く観光客もきっと多いでしょう。

「でも、本当はそれが一番の望みではないな、と感じました」

こう語るのは、認定NPO法人ACE事務局長の白木朋子さん。

大学生の時のインドでの衝撃的な体験から始まった児童労動問題解決への道。しかし、ACEが1,000人を越える子どもたちを救うまでの道のりは、決して簡単な道ではありませんでした。

現在と未来をしっかりと見据えながら語る彼女の語り口調と想いによって、児童労動が世界からなくなる未来が少し見えた気がします。彼女が歩んできた道のり、児童労動問題解決へと続く未来の社会に迫ります。(聞き手:大竹萌音)

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自分が思っていた以上に、世界は大変なことになっている

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――ジェンダーや環境問題など、私達の周りには様々な国際問題があります。その中でも、児童労働問題を解決しようと思ったのはなぜですか?

児童労働の問題と出会ったのは大学生の時です。もともと旅が好きでバックパックを背負ってアジアなどによく旅行に行っていました。そうした中で、路上で物売りをする子ども達に出会い、「なんでこの子たちは学校に行けないのかな?」と思ったのが最初のきっかけでした。

そして、大学3年生の時に児童労働のことを学ぶゼミを取り、インドにフィールドワークへ行ったことが一番のきっかけです。このフィールドワークでは、3週間くらいインドの各地を回り、スラムの子ども達や親にインタビューをしたり、ホスピスでエイズに母子感染してしまい、命が短いことが分かっている赤ちゃんに会ったりしました。

なかでも、「貧しくて子どもを育てられないから赤ちゃんがゴミ箱から見つかることもある」というのを聞いた時は、すごく悲しいことだな、と思うと同時に「インドの大人たちは何でそんなことを野放しにしているのだろう?」と怒りが湧いてきました。しかし、当時大学生だった私には何ができるかというと何もできず、無力感に襲われたのを覚えています。

それから、学生時代のインドでの衝撃的な体験を通して「子ども達の希望とは反する状況に追いやっている児童労働をどうにかできないだろうか?」と考えるようになりました。「子どもたちが望む状況を作りたい」という思いが生まれ、児童労働問題を解決するための活動が始まりました。

私たちは知らない間に「人の尊厳を大切にしないやり方で生み出された物」に対してお金を払っているかもしれない

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――近年、日本でもおさんぽJKなどのJKビジネスが世の中に浸透していますよね。「日本には児童労働はない」と考える人たちもたくさんいると思います。私たちはどんなアクションを起こして児童労働と向き合ったら良いでしょうか?

児童労働は人権の問題であって、「人をどう扱うか」という問題なので、JKビジネスのように、子どもたちから儲けようという考えは、子どもたちを商売道具として見ているということになります。つまり「自分と同じような人間として扱っていない」ということですよね。それは「自分よりも弱い子どもだから」ということを利用して、ビジネスをする側は儲け、逆に子どもたちを買う人たちは「その子ども達も困っているから、買ってあげることで助けてあげている」という側面があるから成り立っていると思います。

これは、「人を人として扱っていない」という点で見ると真っ当なビジネスではないし、私たちがビジネスをして利益をあげたり、生きる糧を何で得るか?といったことを考えた時に、人の尊厳を傷つけるようなやり方でいくら経済を回しても世の中は良くなりません。だからこそ、自分のお金の使い方とその結果がどういう風に繋がっているか、どこから来ている物にお金を使っているのか、ということを考えながら日々を過ごしてもらうことが大事だと思っています。

例えば、私たちが取り組むインドやガーナの児童労働の問題でいうと、自分たちが着ている服や食べている物の元になる原料というのが海外の児童労働のある地域から生み出されることが多くあります。私達は、知らない間に人の尊厳を大切にしないようなやり方で生み出された物に対してお金を払っているかもしれないし、手に入れているかもしれません。それを考えると、少しでも選択肢があることが見えているのであれば、フェアトレードの物やオーガニックの物を選ぶことは誰にでもできるアクションだと思います。

物を選択するときの基準として、貨幣的な価値で見たときに安いものを選ぶというのは必ずしも悪いことではないかもしれません。デザインや値段、クオリティなど、自分が持っている基準を犠牲にする必要はないけれど、基準の一つに「それが世の中とか人のために良いものなのか」ということを考える人が増えていったらいいなと思っています。

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――一人ひとりの意識の変化が重要ということですね。最近では、教科書で児童労働という言葉が使われるようになり、「オーガニックやフェアトレードの物を選ぼう!」という若い人たちが増えてきているような気がします。今の若い世代が大人になった時の未来への期待や希望はありますか?

若い人たちが、フェアトレードやエシカルという言葉に敏感になったり、それを理解して行動に移すというのは、インターネットの普及やSNSなど色々なテクノロジーによって、「世界の裏側で起きていることが見えるようになった」ということが一番大きいと思っています。

私たちが若い頃や私たちの親世代が若い頃は、「自分が住んでいる以外の遠い所で何が起こっているのか」というのはニュースで時々知ることはできても、リアルに感じることは難しい時代でした。でも今はスマートフォンがあれば世界中の映像を一瞬にして観ることができ、実際に世界で起きている問題を実感できる人たちも増えていますよね。こうして「世の中や世界を良くしていこう!」と思う人たちが増えることはとても大きな希望だと感じています。

しかし、前向きに動いている若い人たちもいる一方で、自分が何かしたところで変わらないと思っている人たちが多いのも現実です。私たちが若い頃や親世代とかだと、経済が進んで上向きな状態の社会だったのが、今は経済も停滞していて、社会に対して明るい未来を描けないという時代と感じている人もいると思います。こうした時代の中に生まれた若い人たちは、ある意味で希望を持てない世代と言われたりもしており、両極端に思う部分があります。

ただ、無気力だったり、前向きに思えない人たちも決して力がないわけではないし、もっと自分達の力で社会や世界を良くしていく事ができるということを実感のできる経験をしてほしいです。

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ACEが作るチョコレートは、一般の人達の手に取っていただけるような工夫がされています

――若い世代の中には、無気力であったり、前向きに思えない人たちも多くいると仰っていましたが、児童労動などの国際問題に無関心層の人とは、どのように関わり、巻き込んでいくことが良いと考えますか?

全く無関心の人を関心に向けるというのは、難しいですよね。ただ、よく言うのが、関心層と中間層と無関心層があって、一番下の無関心層を一気に引き込むのは無理があっても、中間にいる人たちを味方にすることで、無関心の人を少し関心に引き上げることができるかもしれないな、と最近思っています。もしかしたら、本当はもっと関心のある人と繋がりたいのに繋がれていないのでは?という感覚もありますし、無関心の人達を振り向かせるためには、中間の人たちがもっと必要なのかもしれないですよね。

自分達が変わりたいと思って生き方を選択したから、そこに変化が生まれる

――今までACEが起こしたアクションの中で、若い世代に示すとしたら例えばどのようなことがありますか?

代表の岩附と学生5人で始めたACEは、直接目にしてきた児童労働のことを日本で知らない人たちが多いから、それを伝えることだったら自分たちでできるからそれをまずやろう!と期間限定で始めました。大きな問題を自分ひとりで解決できるなんて今も思っていませんが、何もしなかったら何も変わらないし、やってみたことで見えることがたくさんあります。

今までACEがインドやガーナで救ってきた子どもの数は1,520人います。1,000人以上の子ども達を実際に救うことができたのは、あの時の一歩があったからです。数として見たら、すごく小さいことかもしれないですが、救った地域や家族の変化に繋がっていると思うと決して小さくないと思っています。

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日本で販売している「てんとう虫チョコ」を持って良い笑顔!

あとは「変えることを決めるのは自分である」ということも大事です。1,500人のインドやガーナの子ども達も、自分達がプロジェクトをやることによって出会い、「働くのではなく学校に行かないといけないよ」と親も含めて説得をして、学校に行くようになって人生が変わっています。

私達のプロジェクトは、出会いや機会のきっかけにすぎませんが、子どもたちを学校に行かせるためにはどうしたら良いかということを現地の人たちが自分で考られるようになることが大事です。どんなに大変な状況でも、きっかけと意思があれば変えることができますし、解決できない問題はないと思っています。自分ひとりで解決しようと思うのではなく、色んな人の助けや手段を自分で考え始めることで「自分の人生を変えることができる」ということを、インドやガーナの子ども達と出会って私は思えるようになりました。誰にでもそれは可能なことだと思います。

ACEと児童労働の未来。「日本の中でも児童労働ゼロ」へ

――この先、児童労動がなくなる未来はあると思いますか?

去年の国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、17の大きな目標の下にある169のターゲットの1つに「2025年までに世界中の全ての児童労動をなくす」という項目が掲げられました。2025年はすぐに来てしまうと思いますが、世界が本気になれば児童労動をなくすことは可能だと信じています。そのためにも、ACEとして何ができるかということを考えています。

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学校で真剣に勉強する子ども達

――2025年に児童労動が世界からなくなっていることを考えた場合に、ACEはどのような活動をしていこうと思っていますか?

ACEが今掲げている社会のビジョンは「世界中の子ども達の権利が守られ、安心して暮らしていける社会」です。私たちは2025年までの戦略を考えるなかで、今まさにこのビジョン自体を見直している最中でもあります。まだ議論の最中ではありますが「人が人らしく生きられる社会」と「その人が持つ可能性を存分に発揮していける社会」、「自分らしい人生を生きていける社会」というのが一つのビジョンなのではないかと思っています。特に、子ども達がそれを実現していけるようになることを望んでいます。

子どもの権利を奪ってしまうような問題は児童労動に限らずたくさんあり、私自身日本の貧困問題にも興味を持っています。それは、去年子どもを産んだことで「この先子ども達がどんな風に生きていくのか」 「どういう風に子ども達を社会で育ていくのか」という想いが生まれたからでもあります。実は、日本にも児童労働といえる状況がありますが、実態がまだ分かっていないので、きちんと実態調査をして日本の中でも児童労働ゼロを掲げていきたいと思っています。

学校に行けるようになった子どもたちの笑顔を見れることが一番嬉しい

――ACEで活動をしてきて良かったと思えた瞬間やエピソードを教えてください。

一番は学校に行けるようになって変わった子ども達の表情を現地で実際に見た時ですね。「学校に行けずに働いていた子どもが、学校に行けるようになっている」というのは親にとっても本当に嬉しいことです。私達は変わるきっかけを提供するだけですが、現地の人たちにとって良いスタートに繋がったことが分かる瞬間というのは、本当にやってきて良かったと思える瞬間です。

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子ども達の笑顔のために

また、日本で講演する時も、「自分に何が出来るのか分からない」と悩んでいた人たちが、私たちの活動を知ることによって、新しい可能性を見つけ、明るい表情になる瞬間があり、そのような瞬間に立ち会えることが本当にありがたいことだと思っています。

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(インタビュー終わり)

いかがでしたでしょうか?

ACEは現在、児童労働のないカカオ豆で作られたチョコレートを作り、世界中に広げていくための第一歩として、クラウドファンディングを行っています。

支援をすると、支援者の名前の入ったオリジナルチョコレートも手に入るので、ぜひチェックしてみてください!

クラウドファンディングでACEを応援する! »
(クラウドファンディングは2016年11月16日に成立しました。)


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