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「“難民”という名の人はいません」

難民という言葉でひとくくりにしてしまうと、問題の大きさや一人ひとりの背景にある人として大切なものが何も見えなくなってしまいます。彼らは昨日まで私たちと何一つ変わらない生活を過ごしていた、一人のひとなのです。

支援の現場で大切なことは、彼ら一人一人に向き合い、耳を傾けること。そしてそれを汲み取り、必要な支援を提供し、彼らの言葉を代弁すること。こう教えてくれたのは、国や人種にとらわれず、国境を越えて医療支援活動を行うインターナショナルNGO・世界の医療団の畔柳奈緒さん。

「医療支援」と「証言/アドボカシー」を使命にかかげ、事務局長として活躍される畔柳さん。これまでどんな困難があったのか。そして私たち、日本人にできる支援とは一体どんなことなのか。

畔柳さんの想い、そして素顔に迫ります。

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社会に貢献できる仕事を探して

ーー国際協力活動を始めたきっかけは何だったのですか?

きっかけは仕事を探しているときに、世界の医療団日本がフランス語の出来る人材を募集していたからです。偶然たどり着いたとも言えると思いますが、ただ、振り返ると来るべきして辿り着いたのかもしれません。

大学生ではフランス文学科に在籍し、歴史、特に労働運動を専攻しました。フランスに留学して1870年代の労働階級による権利を主張する運動について主に学びました。

フランスでは今も日常的にストがありますが、労働者の権利を主張するストもあれば、国際問題に意義を唱えたり、社会的な主張したりするために多くの人が道に出てデモ活動をします。“権利”とか“声を上げること”などは、過去の労働運動を学んだり、また現代のフランスで生きて身についてきたのだと思います。

2003年にアメリカ軍がイラクへ侵攻した時にもフランスに住んでいましたが、その阻止のために国際社会や、世論を動かそうと、市民たちが道へでて声を上げていましたが、私も友人らと一緒に加わったりしました。

その後、日本に帰国し、就職活動をするにあたって、フランス系の企業を見ている中に、世界の医療団を見つけて、どうせ働くなら社会に貢献したい、と思い応募しました。そこから今に至ります。それまで国際協力や社会的な活動には関心はありましたが、プロフェッショナルとしての経験はなかったので、飛び込んでみようという思いはありました。

ーー世界の医療団で働くことについて家族からの反対はなかったのですか?

私の場合は全くなかったです。むしろ応援してもらっています。

今でこそ事務局長という立場ですが、以前は支援現場に行くことも多かったです。バングラデシュ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナム、マダガスカルなど多くの国へ行きましたが、家族から行くなと言われることはありませんでした。

私より母の方が先にカンボジアへ行ったことがあったりとか、家族の中にも社会的な仕事に就いている者もいたりします。どちらかと言うとリベラルな家風ですし、反対などは全くなかったですね。

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国内外、どちらの問題からも目を逸らさずに

ーー世界の医療団の中で畔柳さんはどんな仕事をメインに行っているのですか?

私の仕事はまさに雑多で、本当に色々なことをしています。世界の医療団日本の事務局とその事業全般を支えていくのが仕事であり、新規事業の立ち上げに関わることもあれば、資金調達のチームと働くこともありますし、会計の書類に目を通して何らかの判断をすることもあります。

私は、世界の医療団の主役は基本的に医師、看護師、臨床心理士、翻訳などのノンメディカルも含めたボランティアだと思っていますので、彼らに能力を発揮してもらうために、より良く支える仕事をしていければと思っています。

団体として取り組むべき課題もたくさんあります。例えば今回のプロジェクトのように難民問題は深刻さを増しています。私たちにできることは、それが小さいことであっても、どんどんやっていかなくてはいけない状況です。

日本国内でも、東京ではホームレス支援を実施していますし、4月の熊本での地震の後は支援活動を展開しました。ニーズがあれば、支援するというのが私たちのスタンスです。もちろん、資源と能力の限りにおいてですが。

ーーインターナショナルNGOとして、ネットワークとして取り組むグローバルな課題と、日本の国内の支援がありますが、どういった関わり方をしているのでしょうか?

国外の難民へ対する支援と日本のホームレス支援、どちらに問題意識があるかという質問については「どちらも」です。どちらへの支援でも同じ課題を解決するために戦っているからです。そこに、私の中には大きな区別はないです。逆に、国や枠にとらわれずに活動できるからこそ、この団体が好きだというのもあるかもしれません。

特定の宗教の信仰者しか支援しない、子ども以外は断る、この国民は助け、こちらは支援できないとか、そのような方針には相応の理由があるとも思いますが、私はおそらく満足できないと思います。「どうしてこのおじさんはダメなの?」って思ってしまうと思います。

様々な理由から具体的な支援ができないことがあっても、少なくとも目をそらしたりせずに、ここ日本でも問題があること、シリアが遠いからといって関係ないと言わないこと、全部同じ時代を生きている今の、私たちの問題、課題なのだと思います。日本のホームレスをめぐる問題と、シリア難民の問題の、どちらかだけを選ぶことはなく、同じ敬意と熱量をかけて活動に関われるのが世界の医療団の特徴でもあると思います。

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いくつもの困難と感動を超えて

ーー団体の活動の中で一番大変だったことは何ですか?

大変だったことは言い切れないほどいろいろありますね(笑)。

海外派遣の数日前に航空券の予約のスペルが旅行会社の手違いで誤っていたことが分かり、あわや数ヶ月準備してきたミッションにボランティアが派遣できない、とか。これは、もちろん無理矢理にでも買い換えてもらい事なきを得ました。また、NGOであっても組織を運営するためには健全な財政状況を保たなければならないので、キャッシュフローには慎重にもなります。

そういった日常的なことはたくさんありますが、一番タフだったのは2008~09年に、派遣していた医師が活動地で誘拐され、3ヶ月以上拘束されたことです。109日後に無事に解放されたのですが、その間は本当に大変でした。

ーー逆に、活動をしていて、一番うれしかったことは何でしょうか?

それもいろいろありますね(笑)。一番は支援の対象者さんでもスタッフでも「やりたいことを実現し、なりたい自分になれた」という姿を見られるのが嬉しいです。

例えば、スマイル作戦という短期の形成外科のプロジェクトがあります。私も良く同行したプロジェクトですが、1週間、10日などでミッションが終るので、手術が成功したとしても、その後、患者さんたちがどんな生活を送っているか知ることが中々難しいんですが、バングラデシュで質的評価のために手術を受けた患者の生活の場所を訪問したことがありました。

元気に学校に通っていたり、近所の子どもたちとはじけるような笑顔で遊んでいたりする姿、また、周囲で喜んでいる家族の様子や母親からの話を聞くと本当に嬉しく思います。

何もかも足りていない難民キャンプの現実

ーーシリア難民の問題・支援活動について教えてください。

私が訪問したフランス北部の町カレーの難民キャンプでは、満足な治療を受けられないまま劣悪な環境に住まい続けている難民の方が多くいらっしゃいました。緊急を要する場合は救急車を呼び、搬送することはできますが、その後、その方が必要な医療を継続して受けられるかというと、分かりません。状況や条件により出来ないこともあると聞いています。

キャンプの中ではほかの団体とも協力して活動しています。私たちはアウトリーチ、パートナーはクリニックの運営などです。私たちのアウトリーチチームはほぼ毎日、広いキャンプの中をいくつかのチームがテントを回ったり、また前日までの活動や情報収集から、気になる患者を訪問したりしています。

こうして人々の中をいくと、キャンプの難民の方々に対して情報が行き届いておらず、実はクリニックがあることを知らない方が多いことに驚かされました。足をくじいた方とか、風邪をひいている方とか、行けば医療を受けられるのに、知らない。もどかしさも感じました。

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キャンプには支援を求める難民がたくさんいます

キャンプにいる皆さん、祖国を離れてきて、先行きの見えない不安で、不満もストレスもかなり溜まっています。小競り合いは決して珍しいことではなく、活動をする上ではチームの安全面にも大きな配慮が必要です。

また、言語の面でも苦労があります。難民キャンプにはシリアなどの中東だけでなく、アフガニスタン、アフリカから来た方々がいました。英語はあまり通じませんし、通訳を連れて行くにも言語が限定できない。その都度、周囲の方々から英語を介すその言語の話者を探します。コミュニケーション1つとっても大変です。このように、医療を提供する以前に改善すべき課題も山積しています。

何もかも足りていない、と感じました。このような状況が欧州の各地で起きています。世界の医療団では今お話したフランスだけではなく、ギリシャ、ベルギー、イギリスなどでもそれぞれの事務局ができる支援を提供しています。

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シリア難民は今も数千キロにおよぶ命がけの移動を余儀なくされています

ーー「医療支援」と「証言/アドボカシー」を使命として掲げている、世界の医療団が担うべき役割とはなんでしょうか?

「医療支援」と「証言/アドボカシー」は、分けて考えられがちですが、その双方を果たしていくことこそ大切という思いで私たちは活動していきます。

私たちは、先にも言いましたが、様々な医療に関わる課題に取り組んでいます。シリア難民、日本社会におけるホームレス支援、震災支援もあります。それらの課題について、ただ支援を行うだけではなく、私たちが実践者として関わりながら、彼らのおかれた状況を語ることも重要だと考えています。

今、グローバルでは15カ国に事務局があり、80以上の国で400近くのプロジェクトを実践しています。こうした背景を持つ私たちだからこそ見え、だからこそ日本で伝えなくてはならない義務を負っているとも考えています。

“難民”という名前の人などいない

ーークラウドファンディングへの意気込みをお聞かせください。

私が出会った“難民”となってしまった彼らは、本当に普通の人たちでした。爆撃を受けて故郷を去った、でも、私たちと何も変わらない普通の人たちです。そうした人たちが何千キロもの距離を移動し、色々な場所に身を寄せています。これからの冬は本当に厳しいです。泥だらけの毛布をかぶり、ぬかるんだ土の上で何か月も過ごしています。

“難民”と聞くと、自動的に、“難民ではない私たちとは違う”という思いが生まれるような気がします。それは確かです。私たちは国を逃れ、帰る当てのない環境にはいません。ただ、それは状況の違いに過ぎず、一人の人として自分の人生を一所懸命生きていることに変わりはあません。“難民”という名前の人などいないのです。

普通に生きてきた私たちとなにも変わらない市民が何百万人も凄惨な暴力により、家を捨て、故郷を去ることを余儀なくされています。これが今の難民のお話です。

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400万人以上の難民が行き場をなくし、適切な支援を受けられずにいます

私たちは支援を担う組織であり、できる限り適切な医療を提供するように努め、同時にこの現実を多くの日本の方へ伝えていく必要があると思っています。

ここまで記事を読んで頂き、シリアから逃れた人々が抱える困難な毎日に更に関心を寄せて頂けたら、私たちの活動にも意味があることだと思います。

また、誰にでも「あなたにしかできないこと」があります。ボランティアとして活動に参加すること、あなたの関心事としてこのことを周りの方とお話をしていただくこと、そして、寄付も支援活動への参加の方法です。今回のREADYFORのプロジェクトについても、是非、一度見ていただいて、応援いただきたいです。

(インタビュー終わり)

『VOYAGE PROGRAM』での挑戦

『VOYAGE PROGRAM』は、国際最大規模のクラウドファンディングサービスを手がけるREADYFORが新たにはじめた国際協力活動応援プログラムであり、世界の医療団は第2回参加団体に選出されました。

畔柳さんたちは「命がけで海を渡るシリア難民400万人を医療のリレーで救いたい!」というプロジェクトの成功に向け、現在活動資金を集めています。

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