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皆さんこんにちは、e-Education事務局長の薄井です。今年もトジョウエンジンを応援いただき本当にありがとうございました。

私はこれまでe-Educationの活動と並行して、人材育成事業を行う「合同会社GCMP」の代表を務めてきました。

12月4日発表のニュースリリースの通り、世界で活躍するチェンジメーカーの輩出を目的とした「GCMP(Global Change Makers Program)」事業をe-Educationへ譲渡し、新しい組織のもとで事業を展開してまいります。

【e-Education代表・三輪からのお知らせ】
新事業「GCMP」の開始と事業譲受に関するお知らせ

2017年最後の更新となるこの記事では、e-Educationの新事業「GCMP」の歴史とこれからの展望についてご紹介します。

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① GCMPの歴史

①-1. 誕生(2009年)

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第1回バングラデシュフィールドワークでグラミン銀行のユヌス総裁と面会

GCMPは2009年に当時大学3年生だった友人4人で立ち上げた学生組織です。団体発足のきっかけは、バングラデシュのグラミン銀行を紹介する1冊の本でした。

マイクロファイナンス(小口金融)を通じて貧しい女性の自立を支援しているグラミン銀行の取り組みを知り、「ビジネスを通じた社会貢献」つまり「ソーシャルビジネス」という領域に、当時大学生だった私たちは強い興味を抱きました。

そして、課題先進国と言われる日本にこそ、課題解決に取り組み周囲にもプラスの影響を与えるような主体(=チェンジメーカー)が求められていると確信し、グラミン銀行グループとのパートナーシップのもと日本の学生をバングラデシュに派遣するプログラムを作ろうと決めたのです。

①-2. GCMP第1フェーズ(〜2011年)

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創業期にチームを牽引したメンバー(左から関根、三好、税所)

2009年から毎年夏と冬の計2回、1週間から3週間ほどのバングラデシュフィールドワークを開催しました。教育や健康などのテーマ別にチームを作り、エクラスプール村という首都ダッカから船で4時間ほどの距離にある農村に滞在しながら、ニーズ調査や課題分析、ソーシャルビジネスプランの検証などを行いました。

最終日にはグラミン銀行本部で、NGO職員や現地の経営者の方々へ英語でのプラン発表を行い、その実現可能性を吟味しました。

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グラミン銀行本部でのプレゼンテーション

短い滞在期間のため、即実行に移せる完成度のプランをチームとして作り上げることは困難でした。それでも第1回プログラムで教育チームのスタッフを務めた税所は、GCMPから独立して翌年e-Educationプロジェクトを創業し、また、第2回プログラムの社会人参加者である佐竹右行さんは、もやしの原料を栽培する農業プロジェクトをグラミン銀行と合弁で立ち上げるなど、バングラデシュに貢献する目に見える成果が生まれました。

構成スタッフは全員学生でありながらも意欲のあるメンバーに恵まれ、順調にプログラムを重ねていきました。団体発足からの3年間で、延べ100人を超える学生と社会人がバングラデシュへ飛び立ちました。

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GCMP第1回大同窓会の集合写真

①-3. 組織瓦解、再始動(2012年)

スタッフの加入と卒業を繰り返しながらGCMPの活動は継続していました。しかし、団体のミッションと活動内容の調和の難しさや、人手不足や金銭面での不安定さなどを常に抱えていたのも事実です。

「学生団体3年寿命説」などという言葉もありますが、これはどんな学生団体でもぶつかるであろう壁です。GCMPも2011年ごろにトラブルや不運が重なり、もう翌年は団体が続けられないという状態にまでなってしまいました。

ほぼスタッフもおらず実質的に活動が停止している状態だという話が耳に入ったとき、私はすでにGCMPの運営から離れて1年が経ち、国内の教育系企業に就職していました。

OBOGからは継続を希望する声が届き、そして何より、自分達が大切にしてきた活動や理念が「学生が始めたものなんて所詮そんなもんだ」という一言で片付けられてしまうような気がして、当時の私にはどうしてもそれが簡単には受け入れられませんでした。

ならばせめて、自分が働きながらできる範囲でプログラムの企画運営を続けていこうと決めました。自分にできることがあればと、初めて代表に就任した当時、GCMPへのコミットを続けてくれたスタッフはたったの2人だけでした。

①-4. GCMP第2フェーズ(〜2014年)

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代表就任後初のプログラムでの住民ヒアリングの様子

私が代表を務めるにあたり決めていたことがあります。それは、できることはできる範囲でやるし、できないことは無理にはやらないということです。

極論を言えば、「代表者」と「団体のウェブサイト」さえ維持すれば、「団体のミッションとブランドの消滅は避けられる」という感覚を頭の片隅に置きながら、その時々の最善手を絞り出し続けました。

まずはじめに団体を法人化し、バングラデシュのプログラムへの企業スポンサーを獲得。参加を希望する学生の金銭面のハードルを下げることに尽力しました。

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スポンサー企業での帰国報告会

しかし予期せぬ事態は続くもので、その翌年には現地の政情不安のためバングラデシュのプログラムが開催できなくなってしまいました。

そんな時も「拾う神あり」で、同世代のメンバーが活躍しているNPO法人SETとのご縁があり、バングラデシュに代わる国内のプログラムとして、陸前高田市の被災地フィールドワークを共催で実現することができました。

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津波被害のあった場所でレクチャーを受ける(第1回陸前高田フィールドワーク)

② “GCMP第3フェーズ” ひとつの役割を終えて考える「次の役割」

②-1. フィールドワークに代わる価値創出の模索

団体が発足した2009年ごろは、大学生が途上国へ渡航すること自体が非常に珍しく、そのチャンスも限られていました。そのため第1回プログラムでは16人の募集枠に100人を超える応募がありました。

しかし、類似プログラムが増加し、また途上国に関する情報も増えて渡航することのハードルが下がってきた今、短期のフィールドワークのみを続けることにどの程度価値があるかという疑問が年々大きくなりました。

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バングラデシュの農村地域でトーカイ(ゴミ回収者)へのヒアリング

そこで、これまでのフィールドワークを通してビジネスモデルが練られてきたバングラデシュの農村における環境改善プランに着目しました。そのプラン実現を目指し、GCMP初の複数年プロジェクトとして挑戦することに決めたのです。

この環境プロジェクトは、ブリヂストン社と早稲田大学が設立した連携研究プロジェクト「W-BRIDGE」の助成事業採択を受け、海外事業の優秀事例にも選出されました。他の助成も含め、2年間の協働でおよそ450万円の予算をかけ、400世帯を対象としたゴミの分別回収システムの導入と現地学校と協力しての環境教育推進を行いました。

現在は、早稲田大学政治経済学術院の野口教授の指導のもと、環境プロジェクトを通じた社会的インパクトを「人的資本」「社会関係資本」という切り口で分析し、論文として正式に対外発信していくことを計画しています。

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W-BRIDGE成果報告を兼ねたシンポジウムを早稲田大学で開催

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シンポジウム後の懇親会にて。前列左から早稲田大学・野口教授、W-BRIDGE・青木様、帝京大学・山本教授、財務省・池田先生

②-2. 成熟していく「ソーシャルセクター」に投じたい一手

GCMPの事業譲渡は、e-Education代表の三輪と2014年ごろから議論検討をしてきました。当時テレビで特集されたり書籍の出版も続いていたe-Educationも、GCMPと同じように金銭的・人員的に余裕はまったくなく、新代表の三輪がほぼ1人で必死に切り盛りしている状態でした。

応援してくださる方や参画している学生メンバーも非常に近いコミュニティーであり、経営合理化の意義が大きいことは間違いありませんでした。調べてみたところ、国内のNPO/NGOにおいて合併や買収などの事例は体系として整理されておらず、どのような形で連携ができるのかも全てが手探りでした。

私は2015年5月にe-Educationの事務局長、すなわち三輪が代表を務める組織の「一従業員」となりました。それと同時に、GCMPの活動に三輪がプロボノとして参画し研修講師を務めるなど、2つの法人がそれぞれの活動を続けながら、緩やかな連携をとっていきました。

その「準備期間」を経て、事務局機能の統合と両ブランドの相互発展、そしてそれによる社会的インパクトの最大化が見込めると判断し、今回の事業譲渡へと至りました。

③「新生GCMP」で描く未来

③-1. チェンジメーカーって何?

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チェンジメーカーという言葉は、渡邊奈々さんや勝間和代さんなど著名な方の書籍で使われ、そのイメージも多様でした。そのためGCMPでも「チェンジメーカーの定義」を明確にしようと話し合いの場があり、2012年頃から同じ定義を使用しています。

チェンジメーカーとは、
○大小かかわらず、国内外の諸問題解決にイキイキと挑んでいる人。
○その姿が周囲の人々にワクワクを届け、新たな挑戦を波及的に生み出していく存在。

定義は、一種の「価値観」です。
情熱を注ぎ取り組む社会課題は、国内でも海外でも優劣はありませんし、そしてそのアクションの大きい小さいにも優劣はありません。

むしろ大切にしたいのは、その取り組みを良い表情でしているのか、そしてその取り組む姿勢によってどれだけの人の気持ちに変化を生み出せたのかという点なのです。

③-2. 誰もが誰かのロールモデル

だからこそ、チェンジメーカーの輩出という大きなミッションとセットで、段階を意識した取り組みを持ち合わせたいと思っています。

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長期インターンとしてフィリピンに赴任している中川(右)と現地教育局のジョジョさん(左)

新生GCMPの生命線は、単身で途上国の現場に長期で入り込み「プロフェッショナル」として活動する経験を提供する「海外長期インターンシップ」です。

これは、2010年からの継続的な活動の実績、現地パートナー、フィールドが揃っているe-Educationだからできるプログラムです。

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第1回ネパールフィールドワークの様子

一方で、いきなりその環境に挑むのは難しいという人は、「海外短期フィールドワーク」という従来のGCMPのノウハウを生かしたプログラムが選択できます。興味や志が似た仲間と繋がり、ともに途上国を経験することで、それをきっかけに次のアクションへ進んでいってもらいたいと考えています。

上記の2つのプログラムを積み重ねていくことで追求したいのが、「誰もが誰かのロールモデル」という裏テーマです。

そこで、GCMPのウェブサイトには「チェンジメーカー・インタビュー」というページを設け、更新しています。

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ラオスでのインターンを終えて、帰国後に地元群馬で地域交流の取り組みを始めた高木

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ネパールでのインターンを通じて自分のやりたいことがより具体化し、「サイエンスの楽しさを伝える」に取り組む中尾

途上国へ行く人が偉いわけでは決してありません。
こうしたインタビューを読み、刺激を受け、「自分の地元でもこんなことができそう」と挑戦してみたり、「自分でできることがあればこの人の活動を手伝いたい」とメールを送ってみたり。そんなワクワクの連鎖が生まれていき、日本中、そして世界中に大小さまざまな”Change Make”が溢れてほしいと願っています。

③-3. 境界線をじわりじわりと溶かしていく

これからの時代は、「企業とNPO」の境界が曖昧になっていくのと同様に、「インプットとアウトプット」や「先進国と途上国」、さらには「自団体と他団体」の境界も曖昧になっていくのではないかと思っています。

2018年3月のネパールフィールドワークは、京都外国語大学との連携が決まり、正式な単位認定プログラムとして実施されます。こうしたセクターを超えた取り組みは、GCMPの可能性をますます広げてくれます。

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京都外国語大学で講演やプログラムの説明会を実施

例えば今後、e-Education以外の企業インターンも取り扱う「途上国インターンプラットフォーム」も実現できるかもしれません。また、途上国の大学生が日本の社会課題の現場へ訪問するフィールドワークも「新生GCMP」なら実現が可能です。

GCMPはセクターを超える、すなわち境界を積極的に溶かしていく力を秘めています。中長期的に、何かしら明確な課題を解決するための存在というよりは、目に見えない価値を創造していくことに真摯な存在でありたいです。

④終わりに

GCMPの事業譲受後も、NPO法人e-Educationの最大のミッションは「最高の授業を世界の果てまで届ける」であり、これからも変わりません。

ただし、このブログメディア・トジョウエンジンの運営を通じて「途上国のイメージを豊かにする」を実現し、GCMPを通じて「チェンジメーカーの輩出」も追い求める、そんな欲張りな組織として、過去の自分たちを超えるための挑戦を続けていけるチームでありたいと思っています。

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株式会社と違い合併や買収の事例はほぼ無いNPO業界で、大切なのはそれぞれのビジョンやミッションです。

両団体の代表同士でビジョンやミッションの親和性の高さを確認し、複数年の計画を立てて丁寧に実現した今回の事業譲渡。ここを震源としてソーシャルセクターの新しいうねりへと育てていくためにも、これからますます貪欲に成果志向で歩みを続けていきます。

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GCMP創業メンバー(左から薄井(筆者)、米瀬、三好、税所)


途上国の教育課題を若者の力で解決する

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