ウェブ上で無料で参加できる大規模講義(MOOCs:Massive Open Online Courses)は、日に日に市場を拡大してきています。MOOCs大手のCouseraの受講者数は526万人、再生回数は2億回を超えます。
しかし、アメリカやイギリスを初めとした世界のトップ大学の講義が無料で受けられても、その途上国の様々な理由から実際に生徒たちのためにならないことも多々あります。
今回は、タンザニア発の社会企業「Ubongo」の、各国専用に作られた映像教育コンテンツとMOOCsを比べてみたいと思います。
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MOOCsの限界
これまでにも、数多くの種類のあるMOOCsについてご紹介してきました。しかし、トジョウエンジンを運営するe-Educationには、”Hyper Local“というクレド(心構え・こだわり)があります。
ーーもしもバングラデシュの高校生たちに、世界最高峰の授業を見せたら?
遡ること4年前、私はバングラデシュの農村である実験をしました。
MITの物理の無料講義(ウォルター・ルーウィン先生の授業)をダウンロードして、バングラデシュの高校生たちに見せてみたのです。世界最高峰の授業を見たら、どんな反応をしてくれるのか?期待に胸が高まりました。
しかし、結果は非常に残念なものでした。
高校生たちは首をかしげ、不安そうな目でこちらも見てきます。開始5分も経たずに私はストップボタンを押しました。
MOOCsという概念は、誰でもどこでも世界最高峰の大学の授業を授業を見れる、ということです。
しかし、講義の内容は当たり前ですがノータッチ。言語が違う国ではどうすればいいのか?インターネットへのアクセスが無い場合は受けられないのか?そもそも学んでいる内容が違うのに一体何の意味があるのか?
先進国発のMOOCsはもちろん、途上国でのアクセスも増やしてきており、インド・ブラジル・中国から特に受講者が増加中とのことです。
すでに登場しているMOOCsの現地版
以前トジョウエンジンでは、授業料10万円の、ルワンダに登場した新コンセプトの格安大学「Kepler」をご紹介しました。
これは、MOOCsと実際の現場実習を混ぜ合わせた大学となっています。MOOCsの動画で授業を学びつつ、教授などと一緒にマンツーマンで学習していきます。
さらに、MOOCsだけでは修了証をもらうだけで終了しますが、Keplerの場合、その後の就職先や自己分析なども行なってくれます。
MOOCsだけで学ぶのは大変難しく、そのバックアップとしてKeplerアフリカ・ルワンダでは始まっています。まさに、その国に合わされた教育サービスと言えるでしょう。
そして生まれたタンザニアンMOOCs「Ubongo」
タンザニアの社会企業「Ubongo」は、MOOCsや他の教育サービスプロバイダーとは少し違います。タンザニアの教育事情に特化した教育教材を映像で製作し、様々なプラットフォームからコンテンツを提供しています。
オンラインはもちろんのこと、テレビ、ラジオ、携帯など、デジタル機器さえあればUbongoのコンテンツを視聴することができます。
分かりやすいアニメーションが入ったコンテンツ
教え方、までにも踏み込んだコンテンツ作り
教育分野でタンザニアは、情報を理解することと、単純に暗記する、という他とは違う教育問題点が浮き彫りになっています。多くの生徒たちは、理解するよりもまず暗記しているのが現状で、これには理由があります。
タンザニアの公用語は東アフリカ諸国で使われるスワヒリ語。しかし、中学校に入ると同時に授業は全て英語で行なわれます。
Ubongoのディレクター・リゴンさんはこう話します。
13歳までスワヒリ語で学んでいた生徒がいて、突然それが英語に変わる。高校卒業試験まで、4年間で英語で全ての科目をパスできるようにならなければいけない。だから、結局全てを暗記する教育文化になってしまっているんだ。おかしな話だよ。だって、生徒たちは、この理科の実験の工程と結果を全て言える、でも実際にその工程が一体何なのか、ということは理解していないんだ。
最低レベルのタンザニアの教育
昨年、アフリカの教育水準の低さが世界に大きく報道されました。
なんと、60%のタンザニアの高校生たちが、高校卒業試験をパスできず、大学へ進めない状況に陥ったのです。
この自体に世界銀行は、欧米で爆発的に成長していたMOOCsを持ってきたのです。そして案の定、英語で教える講義に生徒たちはついていけず、また暗記していきます。
これでは以前と何にも変わりません、むしろ状況を悪化させてしまいました。国際協力が失敗に終わる一例です。「先進国での成功モデル=途上国でも成功する」という固定概念は本当に21世紀は捨てるべきでしょう。
ちなみに、タンザニアのインターネット普及率は12%なので、この取り組みも物理的に都市部のある一定の地域でしか行なうことができませんでした。
アフリカンMOOCs「Ubongo」
Ubongoはまず、基本に返りました。2014年1月、チームはBunga Bongoという子供用アニメをテレビで放映。土曜日の午前9時に流し、うまく子供がアニメを見る時間に設定しました。
同国のテレビ普及率は80%程度ですが、家庭では30%となっています。しかしタンザニアでは、テレビはコミュニティ活動の一環として捉えられています。
地方の町に行くと、スーパーやショップの前にテレビに群がる人々をよく見かけます。戦後の日本に少し似ていますね。
リゴンさんは言います。
僕は、ボートで9時間かかる都市部からとても離れた地域に行った。そこで自分たちが作ったアニメを初めて見せようと思ったんだけど、家庭でテレビを見ている人たちは全くいなかった。人々が集まって、一つのテレビを外で見ていたんだ。
国中に広める
Ubongoは、映像の著作権をフリーライツにし、どの放送会社・学校が自由にコンテンツを使える仕組みとなっています。テレビで放映された4時間後、その日に流された映像はDVDになります。
MOOCsは、CourseraやUdacityなど、運営元のプラットフォームでしか基本的に学べません。リゴンさんはこの点についてこう語っています。
DVDにすることで、誰でも簡単にコピーすることができ、これが簡単に国中に拡散されていくんだ。僕たちは、営利でない限り使いたい人が使えばいい、という考えを持っている。
現在はタンザニアの教育省とも協働しており、より多くの子供たちにコンテンツを届ける方法を模索しています。
とにかくローカル使用
子供用コンテンツが現在は多いUbongo。中身にも一層こだわっています。
例えば、一つ算数の授業で例を使うにしても、アニメ風の猿とバナナを使い、足し算引き算などを教えます。その一方で、西洋からのMOOCsを生徒たちに見せると、「何でタイヤを食べてるの?」と。
本当はドーナツなのですが、これもタンザニアの子供たちは見た事もありません。ここでも現地人が理解できる工夫がなされているのが見てとれます。
“テクノロジー×教育”は今後さらに盛り上がりをみせる分野です。しかし、途上国で必ずしも同じモデルが成功するとは限りません。
「アフリカは国では無い」
54ヵ国、それぞれの伝統や教育文化が浸透しており、持続的に教育水準をあげるためには、まず現地の教育問題を知り、それに適切な解決策を練ることが必要になってくると思われます。
Ubongoがタンザニアの教育業界を救い、同様のモデルが途上国でイノベーションを起こすことに期待します!
[Ubongo / Ubongo Kids / Motherboard / Kickstarter]
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