Voyage hirasawa

「失敗」

誰だって、できればしたくないものです。

ただ、国際協力の仕事に「失敗」はつきものであり、自分の力ではどうしようもできない課題にぶつかり、挫折を味わうこともあります。

「でも・・・」と話を続けるのは、NPO法人シャプラニールの平澤志保さん。青年海外協力隊として渡った南米で何度も苦い体験をしながら、それでも国際協力の道を歩き続けています。

「失敗をふまえて少しずつ前に進んでいる泥臭さ」

彼女がに共感したというシャプラニールの特長は、決して綺麗な言葉ではありません。

時間も手間もかかるけど、それでも現地の人に寄り添った丁寧な活動をしている団体に惹かれ、彼女もまた「生産者と共に生涯歩み続ける」仕事に打ち込んでいます。

「失敗」を力に変える。

それは決して簡単なことではありませんが、インタビューを通じて、その方法が少し見えてきた気がしました。

平澤さんの失敗、そして素顔に迫ります。

(聞き手:杉山裕美)


ーー国際協力を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

一番初めにきっかけとなった出来事は、幼稚園の頃にあったと思います。母親に読んでもらった絵本が戦争のことを題材にしていて、それがすごく悲しかったのを覚えています。小学校の時に原爆記念館で受けた衝撃が忘れられず、平和のため、世界で困っている人のために何かしたいなという気持ちがずっとありました。

学生の頃から、漠然と国際協力に関わりたいと考えていて、大学3年生の時にNGOのスタディーツアー(タイ・スリランカの農村)に参加しました。小学校の奨学金の支援をしていたNGOであったので、小学校を訪問して、浴衣とかを着て踊りを踊ったり日本文化を紹介しました。お返しとしてスリランカの踊りをしてくれたり、食事をおもてなししてくれました。そこの子どもの家にホームステイをして、生活体験をしました。農村での体験がものすごく面白かったですね。

誰かのために何かしたいと思って現地に行ったんですけど、そこの村の生活がすごく豊かだったり、村の人たちもとても親切でその人たちとの交流がすごく面白くて。異文化を知ることが楽しくて仕方がありませんでした。そして、こういうことを仕事にできたら面白いんだろうなとぼんやり考えたりもしていました。

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いくつもの挫折を超えて

ーー大学卒業後に青年海外協力隊として2年間南米ボリビアへ行かれましたね。その中でどのようなことを体験されましたか。

実際に現地に行ったからこそ味わった挫折があります。私は村役場の配属であったのですが、すごく荒れていて。役所の人も週に1回くらいしか来ないし、役場が機能していなかったんです。

村の広場って、村の中心で、そこを中心として村が機能していくのですがそこが荒れているということは、村自体も活気がないということになるんです。その広場に隣接した小学校があって、先生たちともその問題に対して「何かできないか」と話をし、みんなで広場に木を植えて村を明るくしたいということになりました。植林活動の当日はみんな喜んで、苗木も植え終わってよかったなと思ったんですけど、次の日見に行ったら、そこから苗木がほとんど盗まれてしまっていたのです。

驚いて小学校の先生に聞いたら、「活動に参加できなかった低学年の子どもたちが、盗んで家に持って帰った」と言われて、すごくショックでした。小学校の先生とも色々話し合って、子どもたちと一緒に行ったものであったけれど、低学年の子たちを阻害してしまっていたということに気づいて、ショックでしたね。

ーーそれは本当に悲しいですね。他にも何か予想外の出来事があったのでしょうか?

はい、ありました。

任地であった村には、村長候補が2人いたのですが、私のことを要請した村長は、私が村に行った時にはいなかったんです。新しい村長のところに行ってみると、「君だれ?」みたいなかんじで、当初企画していた活動も全然うまくいかず、村の人たちと一緒に集落をまわることをしていました。

そうしている間に、村長候補間の対立が激化してしまって、村長の家が燃やされてしまったり、そして元村長であった人は殺されてしまったんですね。それで現村長が牢屋に入れられるということで活動が続けられなくなってしまって、都会のラパスへ任地変更となりました。協力隊で現地に来て、ちょうど1年経ったところでした。

村や小学校で活動を一緒に行ってきて、もう少し色々と動いていきたいなと思っていたところで、村役場の事情で断念せざるを得ない状況となり、想いがあるけど、現場でうまく進まないという状態でした。

ーー2年の活動期間のうち半分が過ぎたところで、任地が変更になったんですね。残りの1年はラパスでどんな活動をされたのですか?

ラパスでは、ボリビアのローカルNGOの方が引き取ってくれることになりました。そこでは、助成金の申請とかができるスタッフが他にいないということで、私が行うことになり、そういった手続きに関する仕事ばかりになってしまいました。

思うことがあまりできない状況で、残りの任期をやり通す支えとなったものは、隊員の同期約10人で、それぞれの任地をまわって日本とボリビアの音楽を演奏して文化紹介をする演奏旅行をしたり、自分の任地以外の活動を行ったりしたことです。すごく楽しかったですし、それが大きな支えになりました。

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失敗談にあふれ、泥臭く前へ進む団体に惹かれて

ーー2年間の青年海外協力隊の任務を終えて帰国後は民間企業での働かれたのですね。

主に国際会議の運営をしている会社で、はじめは翻訳コーディネーターとして仕事をしました。青年海外協力隊として、村おこしのために行ったけど、なかなかうまくいかない経験を現地でして挫折をして帰ってきたこともあり、国際協力系の団体にすぐに入職はしませんでした。

大学を出てすぐに青年海外協力隊に加わったので、帰国時社会人経験は無く、日本で一回社会経験を積んで、それから自分に何ができるかを考えようと思いました。

ーーたくさんの国際協力団体がある中で、なぜシャプラニール入職されたのですか。

やっぱり国際協力の活動に戻りたいと思った時に、現場に近い方がいいなと思ったのです。ボランティアで隊員として関わる以外に何があるかなと思っていた時に偶然募集をしていたシャプラニールのウェブサイトを見た時に、当時の色々な失敗談が書いてあって(笑)

バングラデシュの子どもに鉛筆を配ったら、翌日市場で売られていたとか、そういった失敗談がすごく共感できました。失敗談は、ふつうであれば隠したいことですが、シャプラニールはそこを見せて、失敗をふまえて少しずつ前に進んでいるということを泥臭くやっているということが、全体として見えました。また、現地の人に寄り添った丁寧な活動をしていると感じて入職を決めました。

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国内の支援者と海外の現場をつなぐ仕事

ーー入職した頃は、どのようなことをされていたのですか。

始めの4〜10月の7ヶ月間は、国内活動グループでした。ちょうどシャプラニールが40周年になる年で、40周年のイベントとして品川の増上寺を貸し切って大きいイベントをしました。

シャプラニールには、会員さんや定期的に寄付をしてくださる支援者だけで3,000人弱、その他にも様々な形で活動を支援してくださるボランティアさんが全国にたくさんいます。そういう方々と一緒にイベントを作り上げていく中で、シャプラニールがいかに多くの市民の方に支えられているか、身を持って実感しました。

担当していた40周年のイベントがちょうど終わった頃、偶然、クラフトリンク(フェアトレード)での空きができたので、「商品開発どうですか?」と声がかかり移動しました。

ーー現在のクラフトリンクのお仕事は、まったく新しいフィールドだったのですね。

そうなんです。デザイナーでなければ、アパレルや雑貨とかも関わったことがなかったので「どうしよう・・・」というかんじだったのですが、クラフトリンクの商品開発って、国内に居ながら海外の現場に近いポジションなんですね。そこにすごく魅力を感じました。

バングラデシュとネパールにパートナー団体がありまして、その団体と商品開発のためのやりとりをしたり、発注、入荷と一通り対応します。年に2回、現地に出張があって、現地でパートナー団体と打ち合わせをしたり、生産の現場を見たりと、大変ですが現場を近く感じられるとてもやりがいのあるポジションです。

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ものづくりの裏側にある、途上国の物語

ーー商品開発 ⇒ 発注 ⇒ 入荷という一連のお仕事の難しさはどこで感じますか?

すべて難しいです!(笑)

クラフトリンクの活動は以前からあるので、先輩たちがやってきたものを引き継いでいくかたちだったので、その部分はよかったのですが、例えばサンプルづくり一つをとっても、こちらからの指示がうまく伝わらなかったり、意図していないものがサンプルで上がってきたりするんです。

クラフトリンクは、NGOの活動ではあるんですけど、すごくビジネス的な要素があります。日本側としては、当然納期や品質を守っていかないといけないのですが、一方では現場の事情があり、その調整が難しいですね。例えば、3ヶ月前に発注するんですけど、だいたいいつも納品の直前に、「今年は雨が多かったから」と、納期に間に合わない理由を言われて。その度に、また、きたきたと思いながら、できるだけ前もって納期を設定するようにします。

また、一緒に商品開発を進めていく時は、私の伝え方の責任もあるので、私たちの意図を丁寧に伝えようとしています。たとえば、「タブレットPCケースをサリーでつくる」と言っても、タブレットPCを持ったことがない生産者にはイメージができないですよね。サイズがすごく重要で、違うと入らないから売れないということ伝えるために、タブレットを持って行って、「ほら、入らないでしょう」とその場でみせるなど相当丁寧に伝えます。日々学びですね。

ーーお仕事をする中で、原動力になっていることは何ですか?

現地で生産者のところに行った時に、言ってくれた言葉や笑顔、そしてパートナー団体の担当者の頑張りを思うと私も頑張れます。

バングラデシュでは、女性が働くことがまだ日本ほどには浸透していないんです。だけど、お母さんが手工芸品をつくり始めたことによって、息子の養育費に少しのお金を回せるようになったとか、おかずが一品増えたとか、家庭の中に変化があったんですね。

そうすると息子やお父さんが、お母さんが手工芸品をつくれるように、僕たちが家事を手伝うよと言ってくれたそうです。女性たちと固まってそんな話をしていた時に、家族の中でのお母さんの地位が変わってきたということを目の当たりにした。

また、バングラで石鹸をつくっている生産者は全員もともと売春をしていた方たちなのですが、センターに来たときは、どこか打ちのめされていた感じで、インタビューしようとしても話ができませんでした。それが、2,3年目の生産者だと和気あいあいとなじんで、明るくなっているのを見ると、活動の意味を実感でき、糧になります。

もともと人に売春していることも言えないできた女性たちが同じ境遇の方たちと集まり、お互いに話をし、悩みを打ち明けたりしながら自分が石鹸をつくることで、「子どもたちの生活を支えられている」、「人に胸をはって仕事ができる」と聞いて嬉しかったです。

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大切なパートナーの、大切な想いを叶えるために

ーーシャプラニールはどういった役割を担っていると思いますか。

シャプラニールがネパールで、現地の方と一緒に独自のブランドを立ち上げて、女性が置かれている過酷な環境を変えようとしていることがひとつ例として挙げられます。

クラフトリンクが日本で販売しているShe with Shapla Neer (Sheソープ)という石鹸は、バングラデシュとネパールでつくっています。そのうち、ネパールの石鹸は、グリ村という山奥の村で、ドゥルガさんという50代の女性が自分で立ち上げた工房で作っています。そこの村は女性ばかりで男性は、みんな出稼ぎに行っているのです。女性は村に取り残されて、男性は出稼ぎ先で女性をつくって帰ってこない。そうなるといずれ送金も途絶えます。

こういったひどい状況で、ドゥルガさんは、「これじゃいけない」と、自分で石鹸づくりを学んで、工房を立ち上げたのです。そういうことだったら、シャプラニールと一緒に、独自のブランドを作ってやっていきましょうということで、Sheソープのプロジェクトが始まりました。

しかし、ドゥルガさんの後継者を育てるという課題があります。ドゥルガさん以外の生産者は、人の入れ替わりが激しいです。家族の出稼ぎが理由で続けられなくなる人もいますし、石鹸づくりだけでは仕事が足りていないという現状もあります。

せっかくの工房と経験を継承して、途絶えないようにしていきたい。あくまで主役は村の生産者、というのがシャプラニールのスタンスですが、彼女たちの挑戦を裏方として支えていきたいと思っています。

ーー今後どういったことに挑戦していきたいですか?

まずは、ドゥルガさんが今やりたいと望んている、新しいリップバームの開発を成功させることです。これまでの石鹸に加えて、新しい商品ラインナップができることで、販路の拡大につながり、ドゥルガさんの工房の生産者を増やすことにつながります。

リップバームの人気が出て工房が活気付くことで、ゆくゆくはグリ村の人たちが、自分たちの村にある素材で外国に輸出できるような商品がつくれることに気づき、出稼ぎに歯止めをかけることができれば、と願っています。

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ーークラウドファンディングにかける意気込みを一言お願いします。

リップバームの開発は、ドゥルガさんをはじめ、村の生産者の方が自分たちがやりたいと言っているプロジェクトなんです。私たちは、彼女たちが笑顔になれる仕事をなんとか続けられるように応援をしたいという思いで挑戦しています。皆さまのご参加をお待ちしております!

『VOYAGE PROGRAM』での挑戦

『VOYAGE PROGRAM』は、国際最大規模のクラウドファンディングサービスを手がけるREADYFORが新たにはじめた国際協力活動応援プログラムであり、NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会は第一回参加団体に選出されました。

平澤さんたちは「ネパールの女性に笑顔の仕事を!家族を支えるリップバーム作り」というプロジェクトの成功に向け、現在活動資金を集めています。

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