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Photo: China Internet Watch

Google、Amazon、Facebookに次ぐ、インターネット企業の時価総額で世界第4位の中国企業「テンセント」を知っていますか?

同社は、軸となる2つのメッセージングアプリ「QQと「WeChatを最大限に活用し、時価総額は1500億ドル(約15兆円)を超えています。

上場する中国のIT企業としては最大手。テンセントの度肝を抜かれるビジネスモデル、WeChatを基盤とする急成長の裏をこの記事では徹底解析します!

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テンセントとは?

1998年に設立されたテンセント・ホールディングスは、中国インターネットサービス大手として、インスタントメッセンジャー、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、ウェブポータル、eコマース(電子商取引)、オンラインゲームなど様々なサービスを提供しています。

同社の2014年第1四半期の決算は過去最高となり、現在まさに波に乗っているインターネット企業と言えるでしょう。

QQとWeChatの他にも、中国(人口13億人)最大のSNS、Qzone(月間アクティブユーザー数(MAU)6億)や、同国で1、2位を争う規模のポータルサイト「qq.com」。

さらに、オンラインゲーム大手の「QQ Games」、近日IPO(株式公開)も噂されているeコマースサイト「PaiPai.com」もテンセントの傘下あります。

それに加え、同じく中国で1位、2位を争うミニブログプラットフォーム「Tencent Weibo」や、Googleが提供する同国第2位のサーチエンジン「Soso.com」もテンセントが保有しています。

現在、テンセントの収益の大部分がオンラインゲームによるものですが、Qzoneで販売されるバーチャルグッズ、ポータルと検索サイトからの広告からも相応の利益をあげています。今後は、WeChatに大きく焦点を移動させていき、海外展開していくそうです。

中国版LINE「WeChat」

モバイルメッセンジャーアプリWeChat(中国版LINE)は、QQの発展型として2011年1月にリリースされ、ユーザー数4億は同業界ではWhatsAppに次ぐ世界第2位。

同社最大の成長源となっているアプリでもあり、”モバイルファースト“と”海外展開“ということでQQと差別化されています。MAU(月間アクティブユーザー数)は、前年同期比87%増の3.96億人(2014年第1四半期)です。

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LINE同様、チャットや写真・スタンプの送信ができ、Skypeのようなビデオ電話(+グループトーク)もできます。

こうした情報共有の機能の他にも、ゲームや、「モーメンツ」と呼ばれるフェイスブックに類似した機能でコメントや「いいね!」ができます。

さらに、「シェイク」と「Look Around」という機能では、お互いがスマホを振って、通信用の個人情報を交換することができます。また、近くにいる友達も知らせてくれます。

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ここまでは、日本発のLINEや、ユーザー数世界一を誇るWhatsAppとあまり変わりがないでしょう。しかし、WeChatは単なる”メッセージングアプリ”では終わりません。

安過ぎたフェイスブックのWhatsApp買収

トジョウエンジンでも以前、フェイスブックがメッセンジャーアプリ「WhatsApp」を190億ドルで買収し、その可能性についてご紹介しました。

そして、フェイスブック社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、「WhatsAppはもっと価値がある」と語り、驚いた方も少なくありません。

しかし先日、CLSA(Credit Lyonnais Securities Asia)が、WeChatの現在の評価額を「最低600億ドル(WhatsApp買収価格の3倍以上)」と発表し、TechCrunch始め、各メディアが報道しました。

WhatsAppユーザー5億人は、WeChatより1億人も多いです。さらに、WeChatは基本使用料無料、その一方でWhatsAppは2年目から年間1ドル支払わなければいけないビジネスモデルがあります。なのになぜ、WeChatはこのような破格の評価額が付くのでしょうか?

CLSAのアナリストはこう語ります。

WhatsAppは、1人年間1ドルだ。しかし、WeChatはモバイルゲーム、広告、eコマース、O2O、モバイル決済、ネットバンキングなど多くから収益をあげることができる。WeChatは、今年中に4.5億ユーザーを達成するだろう。ユーザー一人の価値は約142ドルだろう。

WeChatが、一番のマネタイズ(ネット上の無料サービスから収益をあげる方法)方法として選んだのは、モバイル決済でした。中国の大手銀行と提携し、様々な新サービスを打ち出しています。

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Photo: kejixun.com

まず、ユーザーは自らのキャッシュカードやクレジットカードの情報を入力。SNS認証の後に、下記の様々なサービスへアクセスすることが可能になります。

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上の写真は、カード情報を入力することでアクセス可能になる取り引きです。

左の矢印は、”銀行口座”となっており、WeChatのこのプラットフォームを通じて送金ができる仕組みとなっています。

右の矢印は、”ポケットマネー”(預金)。同じく急成長中のケニア発のモバイル送金サービスM-PESAと同じように、ここからWeChatユーザーへ直で送金ができ、他のサービスで使った後の残金もここに表示されます。

他にも、左の写真のアイコンから、タクシーを呼んだり、ネットショッピング、レストランの予約、ゲームのポイント購入、映画のチケットが買えるなど、商業的ファンクションが全部できます。

WeChatユーザー一人の価値が142ドルなのも少し分かるような気がします。しかし、テンセントのクレイジーなマーケティングとビジネスモデルはここからです!

スマホユーザーのインフラに

先日、日本で開催された新経済サミット2014で、IVS共同代表パートナーの田中さんがテンセントのWeChatを使ったイノベーティブな取り組みについてこう語りました。

モバイル決済を通じて、こういう機能が追加できるのは、テクノロジーに詳しい人なら誰でもできる。面白いのは、この3ヵ月のWeChatの動向です。

WeChatをモバイル決済のプラットフォームにもしたテンセントは、次の一手として中国のタクシー予約アプリを提供する「Didi Dache」に投資(株式20%を取得)をします。

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このように、黄色の点々は、近くにいるタクシー(今すぐ乗れますよ)を表します。テンセントは、Didi Dacheと、大胆で面白いプログラムを今年始めに立ち上げました。

それは、この「モバイル決済を中国の人全員に使ってもらおう」というものです。旧正月(中国の新年)と合わせて、1月末頃に本格的に同サービスへの助成(補助)を始めたのです。

例えば、Didi Dacheを使って2ドルでタクシーに乗ったとします。それをWeChatでモバイル決済した場合、そのタクシー料金は1ドル(半額)、つまりテンセントが1ドルを補填するのです。

そして、これで必然的に大勢の消費者がWeChatのモバイル決済プラットフォームへ流れ込みます。しかし、タクシー運転手からみると、モバイル決済は面倒くさく、キャッシュを好みます。そうすると、モバイル決済のインセンティブが無くなってしまいます。

そこで今度は、これを運転手にとっても有利なプログラムにしました。2ドルのタクシー料金だった場合、そのタクシー運転手に対してもテンセントがプラス1ドル払う。つまり、モバイル決済をやってくれるのならば、2ドルの料金がドライバーにとっては3ドルになる、ということです。

テンセントは、2ドルの料金だったら、消費者と運転手にそれぞれに1ドルずつ払うような仕組みを構築したのです。

このプログラムで、1日の予約受付件数は500万件に激増。178の都市で90万人ドライバーがDidi Dacheアプリに登録されたとのこと。そして驚くべきは、旧正月のお年玉キャンペーンと合わせて、このモバイル決済システムに、2億人のユーザーが追加されたことです。

たった3ヵ月でドライバーは倍、使える都市は6倍、予約の受付件数は約140倍になり、ここで支払われた助成金は22.5億ドル(約228億円)にのぼったそうです。

そしてWeChatは、テンセント最大で唯一のライバル、アリババが持つ決済システム・アリペイを、短期間で追い抜くところまで急激に成長を遂げたのです。

この事例をみると、同じメッセージングアプリでWeChatより世界で浸透しているWhatsAppにもこれだけの価値が秘められていると言えます。

インスタントメッセージングアプリ「QQ」

WeChatの10年以上前にリリースされ、テンセントの中核をなすインスタントメッセージング(IM)アプリ「QQ」も忘れてはいけません。同アプリのユーザーアカウント数は8億に上り、ピーク時には約1.7億人がアプリを使用したとのこと。

PC時代、QQはテンセントの全てでした。しかし、時代がモバイルファーストになり、新たなサービス、WeChatが2011年にリリース。以降、モバイルインターネット事業にフォーカスし始めているテンセントは、WeChatを最優先事業としています。

しかし、WeChatの上記のような収益源がありますが、いまだにテンセントの利益の50%はQQから来ています。

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Photo: QQ

投資 vs アリババ

海外企業への投資も積極的に行なっており、ライバル・アリババとの熾烈な争いが見てとれます。

フェイスブックからの30億ドル(約3040億円)での買収提案を断ったフォトシェアリングサービスの「Snapchat」へも2億ドルほど出資。無料ウェブサイト作成サイト「Weebly」へも投資しています。

他にも、中国のロジスティクス企業への1.9億ドル(約192億円)の投資や、電子地図作製会社NavInfoへの1.8億ドル(約182億円)の投資もしています。

アリババに次ぐeコマースサイトの「JD.com」とも提携し、同社の株式15%を取得。

そしてチャットサービスに欠かせないゲーム業界でも積極的な出資を行なっています。先日は、韓国のゲーム企業「CJ Games」の株式28%を5億ドル(約507億円)で取得しました。

さらに、世界で1日9300万人がプレイする人気パズルゲーム、キャンディー・クラッシュ・サガをWeChatユーザー向けに提供することでも合意

ちなみにテンセントは、2012年世界で最も人気だったPCゲーム「リーグ・オブ・レジェンズ」を運営する米ライオット・ゲームズや、「Unreal Engine」で知られる米「Epic Games」の親会社でもあります。

自社の強い事業だけでなく、幅広い分野で投資や買収を行い、シナジーを生み出しながら成長しているのが、テンセントやアリババなどのネット企業の傾向と言えるでしょう。

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Photo: ChinaDaily

新規事業にも手を抜かない

WeChatだけでなく、様々な独自事業の開発も怠っていないテンセント。昨年末には、8秒間までの動画を撮ってSNSで共有できるWeShow(中国版Vine)をリリース。

WeShow上の動画数も100万本を突破し、旧正月機間には1日の動画再生回数が1億回を超えたそうです。

さらに先日、テンセントのアプリのオープンプラットフォーム化を発表。既存の85万のアプリから、デベロッパーたちは約8億ドルの利益を得たとも言われています。

日本企業とのコラボレーションも

日本とも接点が深く、先日アップストアで1位になったミクシィの『モンスターストライク(モンスト)』は、テンセントと提携して中国やマカオでの配信を行なっていくそうです。

電子書籍配信サービスを手掛けるパピレスとも組み、テンセントの「QQ.com」内の漫画・アニメ配信ポータルサイトへのコンテンツ提供も開始するそうです。

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QQの漫画・アニメ配信ポータルサイト「テンセント動漫

次はどこへ行くのか?

そんな中テンセントは先日、大規模なWeChatのプラットフォームを強化するため、WeChat Group(WeiXin Group)を設立。海外展開するための基盤を固めています。

しかし、中国ではフェイスブックなどの海外の有力サービスを利用できなくした影響も大きく、政府の保護がない海外市場で本当の実力を試されるでしょう。

トレンドとして、メッセージングアプリを踏み台に大きなプラットフォーム(コミュニティ)を作り、企業の収益源を相乗効果で増やしていくモデルがあります。

ネット総合サービスを提供している楽天は、既存の9000万人以上の会員に加え、メッセージングアプリのviberを買収。コミュニケーションの入り口をおさえ、ゲーム・コンテンツ・eコマースなどに誘導していくことができます(楽天経済圏)。フェイスブックのWhatsApp買収も、非常に可能性があると考えられ、今後の展開が楽しみです。

WeChatは、既にアフリカでも普及し始めてきており、「中国発のアプリ」を全く感じさせないテレビ広告を流しています。WhatsAppがまだまだ主流ですが、Didi Dacheとのマーケティングの事例から、今後テンセントが大きな一手をどこかで打ってくることは間違いないでしょう。

年初から既に12億ドル(約1200億円)を超える資金をeコマース、不動産、デジタルマッピングなどの分野に投資しており、「WeChatをスマホ利用者のあらゆるニーズに応えるための基盤ロイター)」に発展させる動きを見せています。

アリババの米国でのIPO申請に伴い、テンセントの行方は非常に気になります。WeChatなどがスマホと一緒に、人々にとって欠かせない”インフラアプリ“と化す未来もそう遠くないかもしれません。

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