世界で最も開発が難しい国の一つ、ネパール
今回は、ネパールのある家庭のお話と、負の連鎖を断ち切るe-Educationの事業をご紹介いたします。
生まれた環境によって満足に勉強ができない子どもたちが発展途上国には数多くいます。
アジアの中でも後発開発途上国に分類されるネパールはその地理的、文化的特徴から世界で最も開発が難しい国の一つとも言われています。
北は中国、南はインドという二つの大国に挟まれ、中国国境には世界最高峰エベレストを擁するヒマラヤ山脈が連なっています。海もなく、道もないその地理的特徴からインフラ整備には非常に多くの時間とお金が必要です。
また、130を超える民族と120を超えるとも言われる言語が存在することも開発を難しくする要因の一つです。
※写真の家族は本文とは関係がありません。
農村で暮らすおじさん、ウッタルさん。
ウッタルさんの家には息子さんがいて、いつも一所懸命勉強していて、ウッタルさんはすごく丁寧に教えています。
ある時、ウッタルさんに
「すごく素敵な親子だね」
と言うと、ウッタルさんはこう答えてくれました。
「実は僕の息子じゃなくて孫なんだよ」
「彼のお父さんはサウジアラビアの方に出稼ぎに行って、そのまま亡くなってしまった。たからこの子にはお父さんはいないんだ」
「この子はめちゃくちゃ一所懸命勉強するんだけど、それ以来無口になってしまったんだ」
一見、すごく幸せそうな家族の裏にも、子どもや親の心の中では、教育に対してや将来に対して苦しい想いをしているのかもしれません。
「孫には出稼ぎではなくきちんとした仕事に就いてほしい」というウッタルさんの想いと、お父さんがいないお孫さんの悲しさがそこにはありました。
長い時間をかけて登校してくる生徒たち
ネパールは地理的な難しさなどから産業が発達していないため仕事が少なく、50万人以上(※)が中東などで単純労働者として働いています。中東などでは出稼ぎ労働者の虐待が問題となるなど、厳しい環境があります。
(※)出展:須田敏彦, 2016, 「ネパールの海外出稼ぎ労働者 -急増の背景と地震災害からの復興における役割-」大東文化大学紀要(社会科学編)第54号
ネパールの中学修了試験(SEE)での合格率の低さから、負の連鎖を捉えることができす。
ネパールは険しい山々に囲まれているなどといった”地理的な課題”が多くある国で、地方と都市では産業面や教育面で大きな格差があります。とくに、農村の公立学校におけるSEEの合格率は30%程度で、都市の私立学校の90%と比べると大きな差があります。
農村地域では、SEEの合格率が低いため、進路の選択肢が都心部よりも大きく狭まり、出稼ぎ労働として海外の決して良質ではない労働環境に行かなければならなくなる人が多くいます。
ネパールではその後のキャリアがSEEによって決まると行っても過言ではなく、SEEの成績が悪いと自分だけではなく、両親も悲しませてしまうと、自分を責めてしまう生徒もいるほどです。
自分を責めてしまう子ども、良質ではない労働環境で働くことで命を落とす労働者、離れ離れで暮らさなければならない家族。
ネパールが抱えている課題にSEEの合格率が大きく関わっています。
負の連鎖
正の循環
こういった環境にいる中学生の未来を切り開くため、e-Educationは2015年からネパール事業を開始しました。 ネパールでは農村地域の生徒がより良い職に就き、夢や想いを実現できるように、SEEの合格率向上に取り組んでいます。 そのツールとして現在開発と普及を進めているのが、映像教材です。
教師が映像教材を自分の授業に導入することで、生徒が質の高い授業を受けられるだけではなく、一緒に教師も有効な指導方法を学ぶ事ができます。そして、先生にとってのモチベーションの向上や指導力の向上、生徒にとっての授業の質の向上を目指しています。 授業の質が上がることで生徒の学習意欲も上がり、成績の向上が見込めます。 その結果、生徒の成績が上がれば、SEEの合格率が上がり、良い仕事に就ける可能性が高まります。
農村部パイロット校でのニバンダ先生の映像授業の様子
映像教材で、実際に授業へのモチベーションに変化が表れたのが、農村部カブレのブメ学校で数学を教えるニバンダ先生です。
ニバンダ先生は数年前に首都カトマンズから農村部ブメ学校に赴任しました。当時は
「なんで私はこんな田舎の学校に赴任することになったのだろう?」
と、授業へのモチベーションも上がらず、e-Educationの映像教材の導入にも消極的な先生でした。
しかし、e-Educationのサポートによって、教材の使い方を理解し、また映像教材を見て、自分の知らないことがたくさんあることに気が付きました。
「映像授業を見て私の学びになった。今は、映像教材のように道具や紙を使って授業をしているし、これからはもっと分かりやすい授業をするためにパワーポイントも使って授業してみたいわ」
ニバンダ先生の楽しそうに行う授業を見て、生徒たちも楽しく勉強をできるようになっています。
先生自身が良い教え方や新しい知識を学んだことで教えるモチベーションが生まれ、いまでは映像教材を使いとても熱心に授業をしています。
ニバンダ先生のみならず、映像教材を良いと感じ導入してくれる学校が徐々に増え、いまでは5つの学校で累計約700人の子どもたちに映像授業を届けています。
また、カブレのブメ学校では、SEEの数学の合格率が2018年度と比べて15%から50%まで上昇し、着実な成果を見せています。
ブメ学校の合格率の躍進を、他の学校にもっと広めていけたら、ウッタルさんの家族のように傷つき悲しむ家族を減らすことができます。映像教材を広めることで、ネパールの出稼ぎ労働を減らすことも夢ではありません。そのために、他校の教員への研修や、教師が映像教材を授業中に活用するためのガイドラインなどに力を入れています。
今回紹介したウッタルさんの子どものように、貧しい環境に生まれ、勉強したいのに充分に勉強できないという子どもたちは他にもたくさんいます。
中には質の高い教育を受けられないために、自分の夢を諦めてしまっている子もいるのです。
こういった逆境を変えて、ネパールの生徒たちがチャンスを得られるようにすべく、e-Educationはこれからもネパールの事業を推進していきます!
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今後ともe-Educationの応援をよろしくお願いします!