みなさん、こんにちは。e-Education事務局長の薄井です。
前回の記事では、NGO特有の人材育成領域と「これからの社会」を考えるための視点をご紹介しました。
今回も引き続き、なかなかイメージしずらい「国際協力NGOの国内業務」を解説しつつ、現在の仕事に役立っているなと感じたオススメ書籍をご紹介していこうと思います。
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社会的インパクト評価を組織に根付かせる
NPOは利潤の追求ではなくミッションの達成を目的として存在しています。利潤の追求が目的であれば「売上高」や「営業利益」などが分かりやすい成果指標になりますが、NPOの成果は団体ごとに千差万別です。
また各団体の中で成果指標の設定方法をめぐり意見が割れてしまったり、あるいは成果の測定が難しく指標化ができないまま活動をしていたりする団体も少なくありません。
そうした難しさを抱えるNPOセクターにおいて、最近注目を集めている手法の一つに「社会的インパクト評価」というものがあります。
短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム
▼社会的インパクト評価とは
社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、当該事業や活動について価値判断を加えること
(「社会的インパクト評価イニシアチブ」WEBサイトより引用)
団体が掲げるミッション達成のために必要な戦略や戦術を磨き上げ、そして定期的な振り返りを通して事業を改善していく「成長する組織」の文化醸成も、私たち国内の本部機能が担う役割の一つです。
ロジックモデルで事業を改善
社会的インパクト評価に関するカンファレンスに登壇
6月29日に開催された社会的インパクト評価に関するカンファレンス「Social Impact Day 2017」(主催:社会的インパクト評価イニシアチブ)に登壇し、e-Educationの事例を発表してきました。
このカンファレンスでは、内閣府の調査事業の一環として全国6か所で開催された「社会的インパクト評価実践研修」の参加団体から選抜された7団体が、それぞれ作成したロジックモデルの内容を中心にプレゼンテーションし、参加者からの質問も交えながらパネルディスカッションを行いました。
ミャンマープロジェクトを事例にロジックモデルを作成
ロジックモデルとは、自団体の受益者を明確化し、成果を時間軸(短期/長期など)で区切り整理することで、団体それぞれの活動がどのようなプロセスで成果に繋がっていくのかを分かりやすく示したものです。
そして、ロジックモデルで設定した各項目が指標化できるかそれぞれ吟味し、指標化する場合はその測定方法についてもブレないよう確定します。
これにより、成果指標のモニタリングを通じて事業の改善が可能になるという「ゼロをプラスにする」利点があるだけでなく、指標化しない(できない)項目についても組織内で認識共有することで事業推進上のロスを防ぐという「マイナスをゼロにする」利点もあるのです。
自分たちの活動は、本当に求められているものなのか
ロジックモデルを作成し事業を展開していくスタイルは、これから5年や10年のうちにNPO/NGOだけでなく多くの企業にも浸透していくのは確実な、とても意義のある取り組みであり概念です。
しかし、このロジックモデルは「とにかく作れば良い」ものではなく、取り扱いには気力と技術が必要だと考えています。特に、文化も言語も宗教も異なる相手と手を取り合って活動を行っていく国際協力という領域では尚更です。
「自分たちが成果として設定しているものは本当に適切か?」
「AというアクションがBという結果につながると想定しているがそれは本当か?」
ロジックモデルの作成段階でも、そして作成した後に事業を推し進める段階でも、常に自分たちを客観的に見つめ続ける必要があります。
そこで今回は、途上国支援の取り組みが「先進国による押し付け」になってしまわないよう意識すべき姿勢が学べる書籍『寝ながら学べる構造主義』をご紹介します。
構造主義の考え方は、日常のあらゆる場面にも応用可能な内容なのでオススメです。
人間はどのようにものを考え、感じ、行動するのか?
この本は、入門者のための構造主義の易しい解説書というコンセプトで執筆されています。
所々に落語的解説を挟むという進行で丁寧に説明をしてくれますが、タイトルの「寝ながら学べる」はやや言い過ぎかなというところ。しっかりと一冊読みきるのはそれなりにタフでしたので、これから読む方はご注意を。
さて、それではここからこの本で学んだことについて、一部参考になった箇所を引用しつつご紹介します。
(1) 構造主義とは?
構造主義というのは、ひとことで言ってしまえば、次のような考え方のことです。
私たちはつねにある時代、ある地域、ある社会集団に属しており、その条件が私たちのものの見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定している。だから、私たちは自分が思っているほど、自由に、あるいは主体的にものを見ているわけではない。むしろ私たちは、ほとんどの場合、自分の属する社会集団が受け容れたものだけを選択的に「見せられ」「感じさせられ」「考えさせられている」。そして自分の属する社会集団が無意識的に排除してしまったものは、そもそも私たちの視界に入ることがなく、それゆえ、私たちの感受性に触れることも、私たちの思索の主題となることもない。
ここに書かれているような構造主義の定義を見て、「何を当たり前なことを?」と感じた人も多いのではないでしょうか?
それもそのはずで、この本の第1章の冒頭は「思想史的な区分によりますと、いま私たちが生きている時代は『ポスト構造主義の時代』と呼ばれています。」という説明から始まります。
つまり私たちは、上記のような構造主義の思考方法があまりにも深く(わざわざ認識すらしないほどに)浸透し、「自明なもの」になっている時代を生きているということです。
自明なものは改めて意識することが実は難しく、だからこそ自分の常識を拡張して他者に適用してしまわないような謙虚さを「意識して」持ち続けるために技術や姿勢を学ぶ必要があります。
(2) ニーチェの卓越した共感能力
技能の伝承に際しては、「師を見るな、師が見ているものを見よ」ということが言われます。弟子が「師を見ている」限り、弟子の視座は「いまの自分」の位置を動きません。「いまの自分」を基準点にして、師の技芸を解釈し、模倣することに甘んじるならば、技芸は代が下るにつれて劣化し、変形する他ないでしょう。
(それを防ぐには)師その人や師の技芸ではなく、「師の視線」、「師の欲望」、「師の感動」に照準しなければなりません。師がその制作や技芸を通じて「実現しようとしていた当のもの」を正しく射程にとらえていれば、そして、自分の弟子にもその心像を受け渡せたなら、「いまの自分」から見てどれほど異他的なものであろうと、「原初の経験」は汚されることなく時代を生き抜くはずです。
この本の第1章では、どのような思想史的文脈の中で構造主義が誕生したかを丁寧に解説しています。そこで取り上げられている思想家の1人がニーチェです。
ニーチェはもともと古典文献学という「異なる時代の異なる地域・文化の情報を、今の自分が持っている知識や感性を一旦排除して受け取る」という特殊な心構えをを求められる学問において研究者としての歩みを開始しました。
筆者はニーチェの共感能力を示すエピソードをいくつか紹介し、上記の「技能の伝承」という現代に通じるトピックと照らし合わせながらその卓越さを解説しています。
(3) レヴィ=ストロースが否定した”優劣”
『野生の思考』の冒頭に、ある人類学のフィールドワーカーが現地で雑草を摘んで「これは何という草ですか?」と現地の人に訊ねたら大笑いされた、というエピソードが引かれています。何の役にも立たない雑草に名があるはずもないのに、それを訊ねる学者の愚行が笑われたのです。
ソシュールの用語で言えば、この雑草はこの部族では「記号」として認知されていなかったのです。それは彼らに植物学的な知識がなかったという意味ではありません。それぞれの社会集団はそれぞれの実利的関心に基づいて世界を切り取ります。漁労を主とする部族では水生動物についての語彙が豊かであり、狩猟民族では野獣の生態にかかわる語彙が豊かです。
この本の後半では、「構造主義の四銃士」という異名をとる4人の思想家を1章ずつ使って紹介し、その業績や思想史的な意義を丁寧に解説します。
構造主義の四銃士とは、ミシェル・フーコー(第3章)、ロラン・バルト(第4章)、クロード・レヴィ=ストロース(第5章)、そしてジャック・ラカン(第6章)です。
この中でも特に、「未開社会」のフィールドワークを資料とする文化人類学者レヴィ=ストロースの主張には、国際協力に携わる者にとって非常に示唆深い内容が含まれています。
彼は、「未開人の思考」と「文明人の思考」の違いは発展段階の差ではなく、そもそも「別の思考」なのであり、比較して優劣を論じること自体無意味であると結論づけます。ここでは文明と隔絶された未開の地を例示していますが、先進国と途上国の間にももちろん同じことがいえるでしょう。
いかがだったでしょうか?
今回はややアカデミックな内容でしたが、難しく考えすぎずに捉えてみると、この視点は親子間であったり上司/部下の間でのやりとりや、はたまた交渉ごとなどのビジネスシーンにも通じるものだと気付くのではないでしょうか?
これからも、なかなかイメージしずらい「国際協力NGOの国内業務」を解説しながら、オススメ書籍をご紹介していこうと思います。
それでは、次回もお楽しみに。
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