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ドイツ留学から国連勤務。その後、外資系コンサルティング会社での会社員時代を経て、アフリカで環境コンサルティングファームを起業。

経歴だけ見ると、まるでエリートコースを一直線に歩いてきたかのような印象を受けますが、ここまでの道のりは常に険しいものであったと渋井さんは振り返ります。

今回はアフリカで環境・農業・エネルギーの調査・コンサルティングを行うEnvironmental Technology Africa(ETA)社の創業者、渋井直人さんにETA設立に至るまでの道のりと、私たちはこれからどのようにアフリカと関わるべきなのかを伺ってきました。

環境科学・環境保全を学ぶためにドイツの大学へ

TVで見たアフリカの映像をきっかけに、小学生のころからお小遣いをNPOやNGOに募金していたという渋井さん。中学・高校で水俣病などの公害問題を勉強するにつれて、徐々に環境問題への関心が高まるとともに、かつて日本で起こった公害問題が今度は途上国でも発生していることを知りました。

「世界の環境問題を解決したい」

そんな思いが当時高校生だった渋井さんの中で大きくなっていったそうです。

しかし、当時の日本には環境保護に関するカリキュラムが充実した大学はあまり見当たらなかったため、環境問題への取り組みで評判の良かったアメリカかドイツの大学へ進学することを検討し始めます。実際に二つの国を訪れる中で、最終的にはより深く環境問題に関して学ぶことが出来ると感じたドイツへの留学を決意したそうです。

ただ、ドイツ語をもともと勉強していたわけではなかった渋井さんにとって、ドイツでの大学生活は生半可なものではなかったそうです。

ドイツ語の習得は辛かったですね。1年目は昼間は大学の授業を取っていましたが理解が浅く、夕方は語学学校に通う生活でした。毎日夜中の2時ごろまで大学の図書館にこもって勉強していましたね。

ただ、それでも授業について行くことができないので、長期休暇中に前学期の復習をして、さらに次の学期の予習もするという努力を毎日していました。それでも最初の3年間ぐらいはドイツ人の学生にはかないませんでしたね。ただ最終的に日本で言う修士課程に進学したのですが、そこではそれまでの蓄積もあったので胸を張ることができる成績で修了することができました。

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修士論文の現地調査・ドイツ東部Biosphere Reserve Rhoenにて

アフリカで目にしたニーズと援助活動とのかい離

大学院に入り、学業にも余裕が出てきたところで、渋井さんはかねてからの夢であった国連環境計画(UNEP)のインターンに応募、見事採用され、ケニア・ナイロビにある国連環境計画の本部に受け入れてもらえる機会を得ます。そこでの経験が、渋井さんにとって大きなターニングポイントとなったそうです。

渋井さんが、国連のインターンとして業務に携わる中で感じたのは、国連諸機関の活動が、発展途上国で刻一刻と変化して行くニーズに対応できていないのではないか、ということでした。

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国連教育科学文化機関本部のオフィス(フランス・パリ)にて、上司・同僚と

エルフ・ボブ、現地に求められる活動を

そんな問題を感じるとともに、溢れんばかりの情熱をむける先を求めていた渋井さんが出会ったのは、ケニアで活動するエルフ・ボブというNGOでした。エルフ・ボブとは現地の言葉で1000ケニア・シリング(日本円で1000円ほど)を指す言葉。

主な活動は月1000円を支援者一人一人から頂き、集まったお金とNGOのマンパワーで毎月1つの事業を支援するというものでした。対象となる事業は、現地の方が自分自身で提案したプロポーザルの中から選定。これこそ、現地のニーズに対応した活動であると感じたそうです。

「援助のアイディアは現場から出てくるべきである」という考えに基づいて、毎月20件ほどのプロポーザルを現地の方から受け取っていました。支援先となる事業は多岐にわたりましたが、ユニークなものだと例えばサッカー大会の運営なんていうのもありましたね。

そのサッカー大会というのは、大使館や国連職員の方達とスラムの子供が一つのサッカーチームになって行うというもの。そのようなチームを幾つか編成し、対抗戦で一日トーナメントを行うと、終わるころには大人と子供が親子・兄弟みたいな関係になっています。そのタイミングで、参加した大人に、スラムの子どもたちの教育費等に関する里親制度を提案すると、これが結構みんな引き受けてくれたんですよね。

困難を乗り越えETA設立へ

半年足らずのインターンを終えた渋井さんは、ドイツに戻り大学院を修了。その後2004年からパリのUNESCO本部で勤務。その2年後、2006年に今度は環境分野の専門性をより一層高めたいという思いから、外資系の環境コンサルティング会社へ転職。その間もずっと「社会のために、将来自分に何ができるのか」を考え続けたそうです。

転機は2008年エルフ・ボブ時代からの仲である友人から、アフリカで環境ビジネスを起業したから一緒に経営しないかという誘いを受けたこと。以前からアフリカで環境ビジネスの必要性・需要が高いと感じていた渋井さんは2010年、5年近く務めたコンサルティングファームを退職し、アフリカへと渡る決意をします。

当時、そのアフリカの会社を経営していたのは、渋井さんの友人と、その共同経営者の2人。社員は数人。ところが、渋井さんがアフリカに降り立った矢先、予想だにしていなかった問題が起こる。

エルフ・ボブ時代からずっと一緒に活動してきた旧知の仲の相方は、私にとっては最高のパートナーだと思っていました。前職のコンサルティング会社を辞める前に、彼とは共同経営の条件などを詰めていきました。話は2転3転しましたが最終的にはまとまり、ケニアへの移住を決心。ところが、いざ前職の会社を辞めてケニアに到着した矢先、いきなり彼の共同経営者から、会社のために使途が明確で無い巨額の出資金を要求されました。

その他にも色々と事前協議で全く話し合われなかった要求も受け、合意に達していた内容も反故にされ、共同経営するための関係構築・修正は不可能であると感じました。特にエルフ・ボブ時代からの相方は本当に尊敬していたために、ショックは小さくなかったですね。

結局彼らと一緒に会社をやるという話は無かったことに。ただ、悲しんでいる時間はないと1か月後には自らの力で起業することを決意。実際に会社登記の準備をケニア人のパートナーと進めることにしたそうです。翌年2011年2月には正式に会社の設立が認められ、東アフリカの環境コンサルティングファームEnvironmental Technology Africa(ETA)は誕生します。

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ケニアの首都・ナイロビの気候変動エクスポにて

これからのアフリカとの関わり方

2003年、国連のインターンとして、初めてアフリカを訪れた渋井さんにとって、あくまでもアフリカは「国際援助の対象」という認識しかなかったそうです。しかし近年、アフリカの姿が急速に変わり始めていることを感じると言います。

2003年に初めてケニアに滞在したときは、貧しくて、経済成長の兆しもあまり見られないという意味において、当時の私の認識「アフリカは国際援助の対象でしかない」というのはある程度実情にあっていた部分もあると思います。ただ、2010年にアフリカで会社を始めたとき、特に東アフリカの国々は、確実に経済成長の波に乗っている最中であることをはっきりと感じました。それは、2000年台前半から5-10%のGDP(国内総生産)成長率を毎年達成し続けてきたことにも裏付けられていると思います。

数字を追ってみると、ケニアが自国の税収でまかなう国家予算と対外援助の総額の割合も、この15年間で激的に改善されています。実際に街中を見ても日用品から建材、車まで自分たちの国で生産する段階まで来ています。そのような「日々発展していく東アフリカ諸国の経済」を肌で感じ、「国際援助の対象」としてのみアフリカを見ることは、既に時代遅れとなっていると感じるようになりました。アフリカには、邦人企業にとっても、ビジネスパートナーとなることができる成熟した企業が無数に存在します。私たちは、どのようにアフリカと対等でWin-Winな関係を築くことができるのかを模索していく必要があるのだと思います。

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ナイロビの国連環境計画の屋上にて

より広い地域へ業務を拡大

ETAは現在、主に環境、エネルギー、農業、水・公衆衛生、労働安全衛生、CSRという6分野において業務を提供。ルワンダ最大の廃棄物収集業者に対する事業支援や、ケニア農村部における日本企業の電化事業支援をはじめ、数多くのプロジェクトに携わってきました。これまでに業務実績がある国は7カ国(ケニア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、ブルンジ、エチオピア及びエジプト)。

今年からは、アフリカのより広い地域に業務展開していく計画だとのことで、事業拡大に伴い長期にわたってETAの一員としてアフリカで常駐して仕事をしたいという人材を募集する予定だそうです。興味のある方は是非ETAのホームページをご覧になり、こちら(info[at]eta.co.ke)までご連絡ください。合わせて日本からのインターンも年に1名(期間は6ヶ月)、受入れていらっしゃるそうです。
※[at]を@に変えてご連絡ください。

また5月末には、渋井さんの東京での講演も予定されているそうなので、興味のある方は、上記連絡先にお問い合わせ下さい。

【アフリカインターンのお知らせ】
渋井さんと一緒にアフリカでの事業展開に取り組まれたいという方は、ETA本社(info[at]eta.co.ke)までご連絡よろしくお願いします。
※[at]を@に変えてご連絡ください。

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