AFP International Fundraising Conferenceのパンフレット
こんにちは!e-Education元国内インターンの藤本沙織です。シアトルに留学中の私は、4月15日から4月17日にニューオーリンズで開催されたAFP International Fundraising Conferenceに参加してきました。今回はその中で私が参加してきたセッションについてレポートします!
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AFP International Fundraising Conferenceとは?
ファンドレイズという言葉を聞いたことはありますか?
非営利団体が、活動のための資金を個人、法人、政府などから集めることを指します。AFP International Fundraising Conferenceとは、世界中から4000人のファンドレイザーたちが集まり、150以上のセッションを通してファンドレイジングについて学ぶための国際会議です。
毎年春に開催されるこの国際会議ですが、今年の会場はニューオーリンズ。2005年にハリケーンカトリーナによる大災害を経験したニューオーリンズは、そこから見事に復興し、今では数多くのNPOや起業家が生まれる街となりました。そんなニューオーリンズで、”Resilience & Impact(逆境を乗り越える力とインパクト)”をテーマに開催された2018年のファンドレイジング大会の様子を皆さんにお伝えします!
2018年ファンドレイジング界のトレンドは?
会場入り口
AFP International Fundraising Conferenceでは、以下の9つのテーマに基づいた150以上のセッションが3日間で行われました。
- Securing the Gift
- Donor Research
- Relationship Building
- Ethics, Accountability & Professionalism
- Leadership & Management
- Trends & Innovation
- Volunteer Involvement
- Rebels, Renegades, & Pioneers
この記事では、私が今回注目したRelationship BuildingとTrends & Innovationのテーマの中から3つのセッションについて詳しくご紹介します!
The innovation imperative
このセッションでは、デジタルファンドレイジングにおける最新のイノベーション事例について学ぶことができました。以下、紹介された3つの事例をご紹介します!
1. American Red Cross
American Red Crossウェブサイトより
American Red Cross(アメリカ赤十字)には、600,000ダウンロードをされた献血アプリがあります。このアプリによって、献血したい日時と一番近くにある献血できる場所を選んで、手軽に献血ができるようになっています。また、自分の献血がどこでどのように使われたのかという結果も知ることができます。
アプリの画面
「自分の献血は本当に役に立っているのかな?」と気になる人の気持ちに寄り添った工夫をすることで、献血しようと思う人を増やすことができます。手軽で便利、そして献血者の一人一人に対応したイノベーション事例でした。
2. Amnesty International
Amnesty Internationalウェブサイトより
世界最大の国際人権NGOのAmnesty Internationalでは現在、市民が生み出すデータの活用を積極的に行っています。今までオンライン上で行われていた人権擁護活動は、SNSで情報をシェアすることや、寄付をすることでした。しかし、新しいテクノロジーの力を使って、多くの人々を巻き込んでデータを集め、それらのデータを分析すること(=”Wisdom of Crowds”) で問題の実態を明らかにできるようになっています。
“Wisdom of Crowds”の活用事例として、2014年4月に起きたネパールでの震災があります。ネパールでは道路の整備が不十分で、完全な地図がないために物資の支援が困難な状況でした。しかし、インターネットを使うボランティアのおかげで、たった48時間のうちにその困難な状況を打破することができました。
当時リアルタイムのネパールでのマッピングの様子
驚くべきことに、この活動に協力したボランティアの70%はマッピングを初めて経験した人たちでした。ネパールの人たちの力になりたい、という多くの人々の思いが、テクノロジーを活用することで大きなインパクトを生み出すという事例でした。
3. Tap to give
Good boxウェブサイトより
こちらはイギリスのGood boxが開発したTap to give というシステムです。ますますキャッシュレスな社会になっていく中で、NPOに対して人々が気軽に簡単に寄付できるように、という目的で作られました。クレジットカードをかざすだけで寄付できるので、イベント時などに使いやすそうですね!
Relationship fundraising3.0
セッションの様子
このセッションでは、NPOが支援者とどのように関係を構築していくべきかというテーマについて、様々な具体例や研究結果を示しながら学ぶことができました。
まず、”Transactional”と”Relational”という言葉を使って、2つの概念を比較しました。”Transactional”の考え方では、金額(Single Sales)に注目し、投資コストに対する即時的な利益(immediate ROI)を指標とし、短期的(short term)に考え、支払われた値段(purchase)を重視しています。
一方で”Relational”の考え方では、顧客(寄付者)との関係性を維持すること(customer retention)に注目し、支援者が現在だけでなく将来もたらしてくれる価値(Lifetime value)を指標とし、長期的(long term)に考え、関係性(relationship)を重視しています。
Relationship fundraising3.0で使用されたスライド
※今回のイベントで使用されたスライドは全てこちらからアクセスすることができます。
「コミュニケーションをデザインする」という点が、”Transactional”と比較した時の”Relational”の大きな違いです。支援してくれた方がどれくらい満足したのかを測ることが、支援者との関係性を続けていく上で重要だということでした。
また、支援者が求めているものは満足感だけではなく、団体とのつながり、自身のモチベーション、道徳心、自主性など、人によってそれぞれ異なる多くの要因があります。それらの心理的な要因が”寄付”という一つの行為に結びつくまでの過程は様々で、一人一人の人間関係があるように、団体と支援者の関係性もそれぞれ違って当たり前なんだ、という新たな気付きを得ることができました。
寄付という行為は一見ただのお金のやり取りに見えるかもしれませんが、機械的な作業として捉えるのではなく、NPOにとっても寄付する個人にとっても特別な、1つの人間関係の形なんだと感じました。
Fundraising: Challenges and Opportunities in a changing world
このセッションでは、非営利セクターに限らず産業界全体から見たファンドレイジングのトレンドを知ることができました。数多くの事例があったのですが、ここではVR, ビットコイン、Tech企業という3つの切り口からご紹介します。
VRを使ったファンドレイジング
1. UNICEF
United Nation Virtual Realityウェブサイトより
UNICEFは、ヨルダンのZa’atri Refugee Campの様子をVRを使って人々に伝えています。この難民キャンプにはシリアから逃れてきた80,000人を超える難民が住んでいます。VRの映像を通して、2013年の夏にここに住んでいた12歳の女の子の視点から、彼女の学校やテントの中で生活する様子をリアルに体験することができます。
このVRの映像は2015年にダボスで開催された世界経済フォーラムで初めて公開されてから現在まで、15以上の言語に翻訳され、40カ国以上で人々に体験されています。VRを使うことで、通常のファンドレイジングの2倍以上の効果があるということです。
2. WWF
showcase of fundraising innovation and inspirationウェブサイトより
イギリスのWWFは、野生のトラの絶滅危機に対する人々の関心を得るためにショッピングモールでVRを使ったキャンペーンを行いました。
野生のトラに近づくことは危険が伴うために、野生のトラの絶滅危機という事実を人々の心に訴えることが難しいという課題がありました。また、WWFは対面のファンドレイズに対する人々のネガティブなイメージを払拭したいという考えもありました。
そこで、Tiger Experienceという360度の仮想空間を体験できるVRキャンペーンを行うことでこれらの課題を解決し、1日のキャンペーンで5000人に体験してもらい16人の新しい支援者が生まれました。
showcase of fundraising innovation and inspirationウェブサイトより
3. Greenpeace
環境保護団体のGreenpeaceは、環境問題に対する人々の関心を高めるためにVRを使っています。最近では、イギリスの大規模野外ロックフェスティバルのGlastonbury music festivalが開催された際に参加者にVRを体験してもらうことで、特に16-18歳の若者に興味を持ってもらうことができました。このイベントではVRを使うことで、通常の2倍の支援者が生まれました。
Design weekウェブサイトより
また、GreenpeaceはすでにVRのモバイルアプリを使って、アマゾンの熱帯雨林などの場所を人々が体験できるようにしています。このVRアプリはすでに12,000以上ダウンロードされています。
ビットコインを使ったファンドレイジング
1. bithope
bithope Facebookページより
ビットコインとは、インターネット上で使う事ができる仮想通貨のことを指します。日本ではまだあまり馴染みがないように感じる方も多いかもしれませんが、ヨーロッパでは非営利セクターの寄付のためにビットコインが使われ始めています!
ハンガリーで生まれたbithopeは、非営利セクターがビットコインでクラウドファンディングをするためのプラットフォームを提供しています。
bithopeウェブサイトより
こちらは現在(2018年5月1日)行われているプロジェクトの一つです。ブルガリアでは3000-4000の子どもが親に捨てられ、施設で育てられたり養子として受け入れられています。身体的、精神的に障害を持つ子どもには金銭的な支援が必要で、そのための寄付をビットコインを通して集めています。
bithopeでは現在までに8つのプロジェクトが目標を達成しています。さらに詳しく知りたい方はこちらを参考にしてみてください。
2. Pineapple fund
Pineapple fund ウェブサイトより
こちらは2017年にできたばかりのpineapple fundというビットコインを使った財団です。この財団は、”Pine”という匿名のニックネームの寄付者によって寄付された8600万ドル相当のビットコインを寄付するために作られました。すでに2000万ドル相当のビットコインが、Water ProjectやElectronic Frontier Foundationなどを含む13の団体に寄付されています。
Tech企業の取り組み
1. Facebook
Facebookは、Facebook上で個人やNPOがファンドレイジングができるような仕組みを提供しています。
Facebook Charitable Giving Toolsより
Facebookのページや投稿に”Donate”ボタンを加えることで、別のリンク先を開くことなくFacebook上から簡単に寄付ができるようになっています。
残念ながら、日本では現在(2018年5月)まだこの機能を使うことはできませんが、アメリカ、イギリス、フランス、スペインなどの17か国でFacebookを使ったファンドレイジングができるようになっています。
2. Amazon
Amazonは、Amazon Smileというウェブサイトを運営しています。 Amazon SmileではAmazonと同じ値段で同じ商品を買うことができますが、Amazon Smile上で商品を買った場合には買った金額の0.5%がAmazon Smile Foundationから慈善団体に寄付されるという仕組みになっています。
Amazon Smileを使って買い物をするときには、Amazon Smileに登録されている慈善団体の中から自由に選んで寄付することができます。
3. Google
Googleは独自の検索エンジンを生かして、UNHCRの持つデータやストーリーを使い、シリア難民について知ってもらうための“Searching for Syria”というウェブサイトを作りました。
こちらは人々がよく検索する5つのキーワードです。
- 戦争前のシリア
- シリアで起きたこと
- 難民とは
- シリア難民の行く場所
- シリア難民のためにできること
このウェブサイトでは360°見渡せる写真、動画、グラフが効果的に使われていて、シリアについて視覚的に知ることができます。ぜひ一度このサイトを訪れてみてください。
最後に
世界中から4000人以上のファンドレイザーが集まったこのファンドレイズ大会に実際に参加して、ますます盛り上がるファンドレイジング市場を体感することができました。次回の記事では、今アメリカのファンドレイジング市場を支える企業をご紹介します!
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