「どうして、私は生き残ったんだろう?」
ダッカのテロ事件が発生してから3日後の7月4日。多くの警察が見守る中、バングラデシュの国際空港の出国ゲートを抜ける直前、少しだけ足が止まりました。
「本当に、日本に帰っていいのだろうか?」
まだバングラデシュでやることがあるんじゃないのか。今帰ってしまったら、二度と戻ってこれなくなるんじゃないか。
そんな不安を抱えながら日本へ帰国したのはもう二年前。
社会人になって時の流れはどんどん早くなり、気がつけば一年が過ぎていく中、この二年間はこれまでの人生で最も長く感じた時間でした。
朝起きては同じ問いを繰り返す毎日。
「どうやったら、バングラデシュの若者が、テロではなく未来に向かうのか」
あれから2年。私がバングラデシュに戻ってきた理由と、挑戦する中で見つけた希望をお伝えします。
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バングラデシュとの出会い
みなさん、こんにちは。特例認定NPO法人 e-Education代表の三輪です。私たちは「最高の授業を世界の果てまで届ける」というミッションを掲げ、途上国で教育支援をしています。
e-Educationの始まりは、2010年に訪れたバングラデシュ。当時まだ大学生だった私は株式会社マザーハウスのインターンとして現地の工場で働いていました。
その時、バングラデシュで出会った大学生が税所篤快。彼は貧しい人たちのための銀行「グラミン銀行」のインターンであり、友人の紹介で彼に会いにいきました。
「この国の教育格差を、ICTの力で壊したいんです!」
出会って数分で、彼は熱い想いとユニークなアイデアを共有してくれました。貧しくて塾に行けない農村部の高校生たちに、都市部の有名な予備校講師の授業を、映像にして届けることで、彼らの大学受験を応援する。
「東進ハイスクールのモデルで、この国の教育を変えたいんです!」
元東進生だった私にとって、彼のアイデアは革命的でした。ぜひ協力させて欲しいと頼み込み、翌日一緒にダッカ大学で聞き込み調査を開始しました。これがe-Educationの始まりです。
そこからは激動の毎日。有名な予備校講師を探し回り、映像授業の撮影を開始。完成した動画は寄付でいただいたパソコンと一緒に、毎晩遅くまで受験勉強を続ける貧しい高校生たちの元へ届けました。
毎日必死に勉強する村の高校生たち
そして半年後の大学受験で小さな奇跡が起きます。生徒の一人が、バングラデシュNo.1国立大学であるダッカ大学に合格し、私たちの活動は「途上国版ドラゴン桜」と呼ばれるようになりました。
e-Educationの活動は世界各地へ広がり、バングラデシュでは2015年までに150人以上の貧しい高校生たちが、学費が非常に低い難関国立大学へ進学し、バングラデシュの教育大臣からも高い評価をいただきました。
「私たちは、バングラデシュの若者たちの人生を変えることができた」
大学に進学した生徒たちや、その親族から感謝の言葉をもらうたびに、私たちは少しずつ自分たちの活動に誇りを持てるようになりました。
ただ、その誇りは、2016年7月1日に大きく崩れました。
「自分のせいだ」
「開人、今どこにいる!?」
「ホテルにいるなら絶対外に出るな!絶対だぞ!!」
2016年7月1日の夜9時、バングラデシュの仲間たちから突然電話がありました。彼らは震えた声で話を続けます。
私の宿泊先からそう遠くないレストランでテロ事件があったこと。犯人たちは爆弾や銃を持っており人質を取って立てこもったこと。外国人を狙った事件である可能性が高く、絶対ホテルから外に出るべきではないこと。
衝撃の出来事でした。私は彼らからのアドバイスと日本大使館の指示に従い、翌日も翌々日もホテルから出ませんでした。部屋のカーテンを閉め、暗闇の中で時間が流れるのを待ちました。
ニュースを見るたびに不安な気持ちは増えていくばかり。日本人が巻き込まれてしまったこと、その中には知り合いがいたこと。そして、犯人が優秀な若者だったことを知った時、心が壊れる音がしました。
「自分のせいだ」
なぜ一番近い場所で支援していたはずの私たちが彼らの悩みを受け止めてあげられなかったのか。自分たちの力がもっとあれば、防げた事件だったのではないか。私たちの活動は、間違っていたんじゃないか。
バングラデシュから日本へ無事に帰国しても悩みは消えず、悔しさや無力感は日に日に増していき、気がつけば鬱病になり、仕事ができない状態になりました。
もう一度、大好きな場所で働きたい
「これから1ヶ月、絶対仕事をしないでください」
体調が少しだけ回復して職場に戻った2016年の8月。まだ思うように身体が動かず、これ以上みんなに迷惑をかけたくなく、代表を降りようとしていたところ、職員全員から「1ヶ月休職命令」を受けました。
1ヶ月という長いお休みをもらって、自分の深い部分と向き合った結果、バングラデシュを拠点にするという決断をすることができました。休みを作ってくれ、私の背中を押してくれたみんなには本当に感謝しかありません。
背中を押してくれたe-Educationの職員たち(左から薄井、吉川、三輪、中野、古波津)
「バングラデシュの若者の可能性を信じたい。私のことを信じてくれる仲間たちの応援に応えたい」
想いが固まると自然と力が湧いて来て、福岡で開催されたイベントICC カタパルト・グランプリでは、かつてないほど気持ちを込めてプレゼンすることができました。よかったらぜひご覧いただけると幸いです。
大絶賛された感動のプレゼンテーション「e-Education」 (ICC FUKUOKA 2017 カタパルト・グランプリ) – YouTube
ICCでお会いした方々、e-Educationの活動を支えてくれた方々から背中を教えてもらい、私は2017年5月からバングラデシュを拠点に活動することを決意しました。
もう一度、大好きな場所で働くことを決めたのです。
明日世界が終わるとしても
「バングラデシュで活動してきたことは、本当に間違っていなかったのか?」
テロ事件以降ずっと続くこの悩みの答えを知りたくて、私は全国各地の大学を直接見て回りました。アメリカの経済誌『Forbes』が選ぶ30 Under 30 2016 Asia(アジアを牽引する若手社会起業家30人)に選ばれたこともあって、大学で講義を持たせてもらえるようにもなりました。
20以上の大学を訪ね、出会った学生は1000人以上。その中にはテロ事件を起こした若者の出身大学もありましたが、絶望なんかありません。希望に溢れていました。
ここで一人、紹介したい若者がいます。e-Educationの元生徒であり、大学院生となったシャフィという青年です。
写真中央に移る青年がシャフィです
高校生の頃に父親を亡くした彼は、大学に通いながらアルバイトをして家族に仕送りをする生活を続けていました。そんな彼を応援したくてe-Educationから奨学金を送ろうとすると、「無料では受け取れません」と言って、彼は地元の高校生たちの受験勉強をサポートしてくれるようになりました。
これが私たちの手がける「奨学金&インターンシップ制度」の原型であり、大学生になったe-Educationの元生徒たちが、奨学金を受け取りながら、地元の中高生の学習をサポートするプログラムが始まりました。
そして2017年9月。ロヒンギャ難民問題(隣国ミャンマーから70万人以上の人たちがバングラデシュへ避難してきました)を目の当たりにし、シャフィたちは動き出します。
「彼ら(ロヒンギャの人たち)のために、今できる限りのことをしたい」
e-Educationの元生徒たちが大学を超えて連携しあい、ロヒンギャ難民支援プロジェクトが立ち上がりました。彼らの勇気ある行動は、私を含めたくさんの人たちを巻き込み、最終的には2万人を超える人たちに食料を届ける大きな活動となりました。
この活動の様子は2018年1月に放送されたNHKのドキュメンタリー番組『明日世界が終わるとしても』でも紹介いただきました。現在NHKのWEBサイトでダイジェスト版をご覧いただくことができますので、良かったらぜひご覧ください。
若者たちの力が テロではなく未来へ向かうように― | どーがレージ | NHKオンライン
「ああ、この国を変える主人公ってこんなにもたくさんいるのかと。自分の頑張ってきた意味、テロ事件からずっと考えてきた意味って、やっぱりここにあったのかな」
NHKの取材を通じて、バングラデシュに戻ってきた理由、挑戦する理由を改めて考え直しましたが、その答えはe-Educationの元生徒たちが教えてくれました。
彼らこそバングラデシュの希望であり、明日世界が終わるとしても、私は彼らのような若者の可能性を開いていきたいです。
シャフィのような希望を、国の果てまで
先月6月、e-Educationの映像授業を受講しにきた新しい生徒たちに向けて、シャフィをはじめとした大学生・大学院たちから激励のメッセージを送ってもらいました。
地元から難関国立大学に進学したロールモデルとなる先輩たちに出会い、目の色を輝かせる高校生たち。No.1国立大学に進学した元生徒たち3人からのメッセージが終わり、最後にシャフィの順番がやってきました。
「最初に断っておくと、私はダッカ大学生ではありません。ダッカ大学の試験には合格できず、私はジョゴンナ大学(難関国立大学の一つ)に進学しました。だから、私は受験に失敗したと言えるかもしれません」
聞いている生徒たちの表情が固っていく中、シャフィは話を続けます。
「でも、これからの人生は入試の結果で決まるわけではありません。失敗は私の財産であり、受験勉強に打ち込んだ毎日が今の私の支えになっています」
彼は自身が非常に貧しい家庭で育ったこと、そのためにいじめにあったこと、父親が高校生の時に亡くなったこと、それでも大学進学を諦めなかったことを伝え、最後にこう締めくくりました。
「私は自分が貧しく、弱者であることを誇りに思います。弱い人たちの痛みや苦しさがわかるからこそ、私は未来を、社会を、この手で変えることができる、そう信じています」
シャフィのスピーチを聴きながら、バングラデシュに帰ってきてよかったと心から思いました。
テロ事件から2年。まだ完全に治安が落ち着いたとはいえず、バングラデシュ全土が危険度レベル2の状態(出典:外務省の海外安全ホームページ)であり、テロに対する特別警戒は「継続中」です。
今年はさらに来年2019年1月〜2月に控える国政選挙の影響もあって、外務省の定める危険度がすぐに下がるとは思えません。
ただ、それでも私がバングラデシュで見ているものは若い「希望」であり、この希望をバングラデシュの果てまで届けられるよう、今できることを一つ一つ積み重ねていこうと思います。
皆さまへお願い
最後に。この記事を読んでいただいた皆さまへ、大切お願いが3つあります。
お時間の許す範囲で構わないので、ぜひお願いを聞いていただけたら本当に嬉しいです。
30秒をください
2年前の今日。7月1日に亡くなった日本人の方が7名いらっしゃいます。
岡村誠さん、酒井夕子さん、下平瑠衣さん、黒崎信博さん、田中宏さん、橋本秀樹さん、小笠原公洋さん。
男性も女性もいらっしゃいました。20代の方から80代の方までいらっしゃいました。そして全員が国際協力の分野で活躍され、バングラデシュの発展に貢献されている方でした。
そんな彼らのことを、30秒でもいいので、ぜひお一人お一人の名前に触れながら、想っていただければ幸いです。
3分間をください
私は、昨年からバングラデシュを拠点に活動し、この記事でも紹介したバングラデシュの「希望」を日本の方々にお届けしようと思って発信してきましたが、まだまだ力が足りません。
個人的な印象ですが、今もバングラデシュのイメージは悪い状態が続いており、今日の報道でまたイメージが悪くなるかもしれません。
それでも、私は私がこの目で見てきたバングラデシュの希望を信じたく、ぜひ皆さんの力を貸していただきたいです。
この記事や、記事中の動画をご覧いただき、もしバングラデシュのイメージが少しでも明るくなったのであれば、ぜひFacebookやTwitterなどSNSでシェアいただけないでしょうか?
皆さんの言葉には力があります。それは日本国内のイメージを変えるだけでなく、バングラデシュで挑戦を続ける若者たちの支えにもなるんです。
皆さんからのコメントは、私が現地の若者たちに一つ一つお届けしますので、良かったらぜひ皆さんの「声」をください。
5分間をください
私には、今どうしてもやりたいことがあります。
それはシャフィのような希望あふれる若者を、バングラデシュ中に増やすことです。
バングラデシュには全国64の県があり、その大半がまだ農村地帯です。そんな地方に希望の光を灯したい。シャフィのようなロールモデルをもっともっと増やし、全国の中学生や高校生たちが希望を持って未来を切り開いていく流れを一秒でも早く作りたい。
そう想って今、記事中でも紹介した奨学金制度の拡充を進めており、2020年までに100人の大学生の挑戦を、想いある奨学金の力で応援しようと計画しています。
1人あたりの奨学金は年間約7万円。これだけあれば、夜通しでアルバイトをしながら大学に行く必要はなくなり、地元や他の地方の高校生たちをサポートする挑戦もできるようになります。
毎月1,000円寄付してくださる方が6人いらっしゃれば、もしくは毎月3,000円寄付してくださる方が2人いらっしゃれば、シャフィのような大学生たちの挑戦を応援することができます。
想いの詰まったお金が彼らに届くことで、日本とバングラデシュの結びつきが強くなり、それがテロのない未来に繋がると心から信じています。
もし共感いただける方は、ぜひ以下のページから私たちe-Educationの活動を応援をよろしくお願いいたします。
最後の最後に
先日、年に一度のe-Education活動報告会’18に登壇したところ、昔からお世話になったいている方からこんな嬉しい言葉をいただきました。
「今までで、一番良い笑顔をしていましたよ」
毎年お会いしている方が言うのですから、きっとそうなのでしょう。
ただ、あまり自覚がなかったので、改めてバングラデシュに拠点を移してから撮った写真を振り返ってみると、なるほど、確かに楽しそうに笑う写真がいっぱいありました。
親友マヒンの愛娘と一緒に
ロヒンギャ難民キャンプにて
はじめての社員旅行(ピクニック)
毎年恒例のイフタール(ラマダン明けの軽食)パーティー
バングラデシュでの生活はもちろん上手くいくことばかりではありません。というか、ほとんど上手くいきません。
それでも、こうやって笑うことができるのは、バングラデシュのチームメンバー、その先にいる生徒たち、いつも私を支えてくれるe-Educationの仲間たち、そして支援者みなさんのおかげです。
全ての人たちに心から感謝しつつ、バングラデシュの仲間たちと一緒に、できることを一つ一つ積み重ねていきます。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
最高の仲間たちと一緒に、これからも頑張ります!
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