「国際協力の本当の支援ってなんだろう?」
ADRAによる経済的に裕福ではない家庭の子どもに対する教育支援は2000年からずっと続いてきました。ネパールの就学率は確かに向上しましたが、中退率もかなり高くなっており、3人に2人の子どもが経済的な理由で中退してしまうという現状があります。
そんなネパールで活動する、ADRAのネパール事業担当の小川真以さんにお話を伺いました。涙ながらに語った小川さんのネパールへの熱い気持ちを皆様にお伝えします。(聞き手:徳永健人)
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学生時代に目の当たりにした途上国の現状。「彼らのために背中を後押しできるようなことをしたい」
ーー現在、ネパールの山岳地帯で、かなり険しい環境の地域で活動をしていらっしゃいますが、国際協力の業界で働こうと思ったきっかけについて教えてください。
最初に国際協力に興味を持ったのは高校生のころで、当時やっていたテレビ番組を通して他の国の価値観を知り、すごく新鮮に思いました。私たちにとって「普通のこと」が途上国の人たちにとっては「普通ではない」ことを知って衝撃を受けました。
そこから大学一年生の時に友人のお母さんを頼って、一ヶ月ケニアでボランティアをしました。スラムから学校に通う子供たちを見て、「彼らは自分がスラム以外に住めるようになると思っているのだろうか。」と疑問に思いました。
私はいろんなことに恵まれていて、帰る家もあるし、愛してくれる家族もいるし、学校にも行かせてもらって食べたい時に食べることもできていました。ケニアに行って、そうじゃない人もたくさんいるんだ、というのをちゃんと現実として見たときに、「彼らのために背中を後押しできるようなことをしたい」と思ったのが国際協力を志したきっかけです。
ーー実際にADRA JAPANで働く前にはどんなことをされていたのですか?
大学を出た後2年間、一般の企業で働いて、そのあと青年海外協力隊としてネパールで活動をしていました。協力隊時代は都市部で、ゴミ収集車のルートの制定やリサイクルの啓蒙活動など廃棄物処理の仕事をしていました。
その後、ADRAに入ったのは何かの縁だったのかなと思いますね(笑)。ネパールにいたときに機会があってADRAチームの通訳を担当したこともあったので、団体のことを知っていましたし。 ちょうど就職活動をしている時に、募集をしていて機会があったので応募しました。
ADRAのいいところは、現地の声をすごく大事にしていて、現地のニーズを考えた上で、事業を行っているところですね。自分たちのキャパシティを考えて事業を行っていますし、被益者にも支援者に対しても誠実で、働いていてもとても気持ちがいいです。
ネパールの人々の“選択肢”を広げるための2つの事業
ーー普段の活動ではどんなことをしているのですか?
わたしの主な事業は母子保健事業で、妊婦のお母さんや新生児が健康に出産でき、健康に生まれることができるような支援を行っていました。具体的には助産師の育成や妊産婦への啓発などです。首都カトマンズから片道4日かかる山岳地帯などで活動しています。
今回クラウドファンディングを行っているカブレ郡も同じく山岳地帯で、そちらでは教育支援事業に携わっています。そこで暮らす人たちは大体が農業で生計を立てている人が多いので、食べるものはあるが、現金収入を得るのが難しいという家庭がほとんどです。そういった家庭の子は学費や学用品を準備できず、学校に行くことが難しくなってしまいます。
つまり、奨学金がなければ、彼らにとって学校に行くことの優先度(プライオリティ)は下がってしまうんですね。学校に行くための選択肢ができるような機会を作ることを私たちはやっています。
ーーどういう状態になれば選択肢があると言えるのでしょうか?
私の理想の支援とは、ネパールですとか途上国の生活水準を、日本やアメリカのような先進国の水準にあげることではないんです。ネパール人たちは、彼らは彼らで、もうすでに満たされている「豊かな心」があります。それには日本人が忘れてしまっているものですとか、私たちが知らないものもあります。
ただ、人間が人間らしく生きる選択肢というかベーシックなニーズについては、まだまだ満たされているとは言えない状況です。「病院に行く/行かない」、「学校に行く/行かない」という選択も、そもそも、病院がなければ「そもそも行けない」ということになるんですね。その選択肢を増やしていくことは尊厳を増やしていくことにも繋がってきます。
私も大学に行って、会社に勤めて、今こうしてアドラジャパンで働く選択肢を選ぶことができています。選択肢の幅が広ければ広いほど人間は悩みますが、それだけ尊厳があるということです。自分の意思で自分の人生を開拓できる状態だということです。
彼らが自分の考えや意思で選択肢を取れるようにすることが私たちの仕事です。母子保健事業や教育支援事業は現地の人にとっては一番最初のベーシックなニーズでもあります。これからが拓ける第一歩の選択肢を整備できるというのは、私がこの仕事をしていて好きなことですし、それが目に見えてわかる、現地の人と話せる仕事というのはとてもやりがいのある仕事ですね。
ーー教育支援を受けて卒業した子たちは今どうなっているのですか?
私たちは12年生までの支援を行っています。その後は自分たちで学費を稼ぎながら進学をするのか、それとも就職をするかでそれぞれで選択します。薬剤師になりたいという男の子は、お母さんがローンを組むことで進学しました。彼はお母さんの負担を減らすため、昼は一生懸命勉強しながら、夜も自身でアルバイトをして働いて学費を稼いでいます。
ナマステ基金で教育を受けた子はどの子も向上心があります。みんな苦労して学校を卒業しているので、人一倍頑張れる素養のある子が多いですし、勉強にかける思いがすごく強いです。ネパールは私立高校も多いのですが、国の中核を担っているのは公立高校出身の苦学生の子が多いんですね。
そういう貧しい家庭出身で苦労している子って本当に頑張っているのでガッツもありますし、身の回りの方にそういう思いをさせたくないという子も多いので、ネパール人を支える優秀な人材になっていきます。
ーー今まで出会った子の中でも忘れられなかった子とのエピソードはありますか。
現在支援しているカブレ郡のキムタヒちゃんは私にとって印象的な子です。彼女には、世話が必要な弟と精神疾患のお父さんがいて、農業で生計を立てているお母さんのお手伝いをしながら学校に通っています。
朝、弟の世話をして、弟を別の学校に連れて行って、ご飯の支度をして、ご飯の支度をしながら(夜は明かりがなくて勉強できないので)宿題をして、畑に行っているお母さんのお手伝いをして、お父さんにもご飯を食べさせて、食器を洗って、身支度をして、学校に行く、という生活を送っています。以前には水牛や家畜も買っていたので、家畜に食べさせるための草刈りに出かけることもありました。
朝から本当にフルで働いています。そんな生活のなかでも彼女は学校でも優秀な成績を修めています。
ーーキムタヒちゃんは、本当に心優しい子なのですね。
そうですね。ただ、彼女とのエピソードの中でかなりショックだったこともありました。キムタヒちゃんに、支援者様に向けたメッセージを英語で書いてもらったのですが、彼女はそこに「I am poor.」って書いていたんです。
「私は貧しい家庭の出身です。母親は農家で、父親は精神疾患(メンタルプロブレム)があります。」と。私には子どもがいないのですが、もし自分の子どもが「自分が貧しい」と思っていると知ったら、お母さんはすごく心が痛くなってしまうだろうなと思いました。
確かに経済的な理由でだけ見れば貧しいかもしれません。お母さんの仕事の手伝いをして、お父さんの世話をして、弟の面倒を見て、という生活をたった13歳の女の子がやっています。経済的な面で自分のことを「poor」と言っているのかもしれないけど、彼女は決して貧しくなんかありません。私たち日本人よりよっぽど「豊かな心」を持っています。すごく努力をしているし、すごく苦労をしていますし、、、。
「I am poor.」と書いていたキムタヒに私は声を掛けました。「あなたはpoorではないんだよ。経済的な面だけを見るとそう思ってしまうかもしれないけど、私はあなたの努力や苦労を知っている。あなたは(ほかの人よりも)よっぽど豊かな心を持っている」と。
キムタヒのような子には奨学金の支援は不可欠です。彼女のような優しい心を持った子どもたちはたくさんいます。これからのネパールの中核を担う、将来を引っ張ってもらえるような子どもにこれからも教育支援を届けたいと考えています。キムタヒちゃんは将来警察官になりたいと語ってくれました。
ネパールの子どもたちのこれからの未来を照らしていくために。
ーーこれまで5年間ネパールで活動をしてきましたが、これから先どういった活動をしていきたいですか?
ちょっと重複するかもしれませんが私が目指す国際協力とは選択肢の幅を広げられるような活動することです。どんな国のどんな人でも自分の意思で人生を決めることができるような環境の整備をしていきたいです。
保健だったりとか教育だったりとか自分の生活を立て直すための経済支援であったりとか、本当にベーシックなニーズが満たされていない人が多いんですね。まだまだそこから抜け出せない人たちの背中を押してあげられるような支援を目指したいと考えています。
ーークラウドファンディングにかける意気込みを一言お願いします。
今回クラウドファンディングで支援を募っていますが、私たちにとっては一回や二回飲み会に行ったら使い切ってしまうような金額かもしれません。しかし、そのお金はあなたの思っている以上に誰かの人生に影響をあたえることになります。
実際に教育支援を受けている子どもたちは本当に一生懸命勉強して、自分の将来を築き上げていこうとしています。子どもたちと直接会わせてあげられないのが残念ですが、彼らの熱意とか、苦労や頑張りは本当にすごいものです。
皆様のご支援が子どもたちの将来を明るく照らし、彼らの選択肢の幅を広げていきます。ぜひ一緒にプロジェクトを応援していただきたいです。キムタヒちゃんのような子に一人でも多く満足に教育を受けられる環境を整備していきたいと思います。
(インタビュー終わり)
READYFORでのクラウドファンディングへの挑戦
特定非営利活動法人ADRA Japan(アドラ・ジャパン)はREADYFORでクラウドファンディングに挑戦しています。
小川さんたちは3人に2人が学校を中退。ネパールの子どもたちに教育支援を!というプロジェクトの成功に向け、現在活動資金を集めています。
ネパールの子どもたちの可能性を広げる挑戦、よかったらぜひ応援してみませんか?
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