先日11月29日、パナソニックと多摩大学総合研究所の共催のもと、NPOサポートセンターが主催した「NPOマーケティング フォーラム2014」に参加してきたのでご紹介します。
第一部 NPOマーケティングプログラム 2014年成果報告会
NPOマーケティングプログラムとは座学だけでなく実践までを含んだマーケティングをブラッシュアップするプログラムで「NPOがマーケティング力を身につけ、そのノウハウを個人のスキルに留まらせず組織全体で共有し活用して、組織が抱える様々な課題を自力で解決できるようになること」を目指します。
第一部では2014年に本プログラムに参加した5団体からの成果報告が行われたのでご紹介します。
CBすぎなみプラス
CBすぎなみプラスは「物心ともに豊かな地域づくりに挑戦する」ことをミッションに掲げた杉並区の中間支援団体です。
本プログラムでは組織連携網の構築強化を目的として、施策として起業家むけ無料セミナーを実施しました。しかし想定していた結果が得られず、試行錯誤しながら後半では認知度向上と人材確保に注力しました。
現在でもペルソナの設定から顧客像を明らかにし、団体の活動をブラッシュアップするために奮闘中です!
シミンズシーズ
シミンズシーズは「誰もが市民という役割を楽しめる社会」をつくるために活動している中間支援団体です。
こちらの団体は共感して会員になる人がいないことを課題として、自分たちの強みの確認から始め、顧客リサーチを通して、顧客が「活動が広がる」ことを期待して団体を活用しているということを想定。
それを確かめるために、イベントやコミュニティ作りなど3回のPDCAを回し、活動内容を明瞭化してきました。
現在も入会無料キャンペーンを行うという4回目のプランを進めているところで、ターゲットをより明確になるように施策中です。
JASH日本性の健康協会
JASHは「性の健康」を推進し、誰もが安心して性について語り合える健全な社会を実現すること目指す団体で、本プログラムでは保健室サポート事業と性についての語り手サポート事業を行っています。
性の問題に対して当事者がどのようなことで悩んでいるのか知りたいという人に当事者が生の声を届けるこの事業ですが、今回の施策を通して、小中高の養護教諭に電話をして性に対する関心の高さの差を明らかにしたり、相談カードを使って生徒へのアプローチを行いました。
しかし、問題となったのは性について語る、語り手を守る体制を整える事が急務だと明らかになりました。嫌がらせが起きやすいため、そこへの対策を今後詰めて行くようです。
ちょうふこどもネット
ちょうふこどもネットは「青少年の健全育成」をミッションにした、中高生対象の児童館を運営する団体です。
卒業後の生徒と接点がないことを疑問に感じ、施設を利用する現役生をサポートする卒業生へと受け入れる事のできる体制を整えるために、卒業生にアンケートをしたり、一緒にミーティングを行ったりしたそうです。
そんな中でわかったことが、卒業生の中にも現役生の役に立ちたいと思っている人が多いということ。今回、顧客である卒業生の気持ちをわかっていたつもりでも、聞いてみると想定と異なる事があったり、個別で連絡をすることでコミュニケーションを取りやすいという発見があったそうです。
日本トラベルヘルパー協会
日本トラベルヘルパー協会は介護技術と旅行知識をもった外出支援のスペシャリストが顧客の手足となって外出を支援する活動を行う団体です。
こちらの団体はもともと個人を顧客として想定していましたが、本プログラムを通して自分たちの本当の強みを突き詰めていった結果、「介護旅行のノウハウがあること」があがり、養成講座を開いて法人を顧客すると方針を変更しました。
自分たちだから提供できる価値は何かを考え、実践を繰り返すことで自分たちに合った手法を見つけることができました。
第二部 NPOマーケティング ケーススタディ分科会
第二部では4つの分科会に別れてNPOマーケティングの先行事例を学びます。それぞれの分科会ごとにご紹介します!
【分科会1】Facebook、Google広告を活用したオンライン広告とマーケティング
WEB広告を活用した先行事例としてNPOカタリバの広報・ファンドレイジング部の善木さんからお話がありました。
カタリバとは「子供・若者の未来を生き抜く意欲や能力が生まれ育った環境に左右されてしまう」という社会課題を解決するために2つの事業を行っており、今年はその事業規模が3億円ほど。その中で、寄付は1億3千万円ほど集まっているそうです。これだけの寄付を集める鍵となるWEB広報の秘密に迫ります。
まず、Facebook広告の利用について。この広告の特徴は地域や年齢、言語といった項目でターゲットを設定できることが上げられます。
カタリバさんではこのターゲットごとに広告の写真を変えてみたり、クックパッドの「コーヒー一杯分の値段で」という広告の見出しを参考にしつつ、「33円からできる~」というような見出しをつけたりと、常にターゲットに対して最も響く広告を模索しているようです。
またGoogle広告ではGoogle Grantsを用いて検索画面に表示される広告では表示内容が団体の活動説明より、検索者のニーズに沿った内容になるように意識したり、キーワードと広告文章を一致させることを意識しているようです。
これらの検索連動型広告はGoogle Grantsの無料版で利用可能ですが、より力を入れたいサポーター募集等の広告では有料版のリマーケティング広告を用いるなど、使い分けを行っています。
しかし、今回驚いたことは、カタリバの広報・ファンドレイジング部には現在6人スタッフがいるそうなのですが、その方たちの中に広告運用経験者がいないということです。そのような環境でもWEBを駆使して、WEB経由の寄付者が9割を占め、寄付額を8倍にするという結果を収められています。
常に費用対効果を意識しつつ、PDCAをはやくまわすことで効果を出すことができるとお話されており、大変参考になりました。
【分科会2】コンテンツマーケティングで独走する「トジョウエンジン」について
NPOコンテンツマーケティングの事例として、このトジョウエンジンを紹介いただきました。
まずコーディネーターのgreenz.jpの植原さんより、コンテンツマーケティングには電話営業やDMのように直接声をかけるPush型と、ブログのように新しい読者を引き込むPull型とがあり、トジョウエンジンをPull型の良い事例として紹介がありました。
トジョウエンジンでは、運営団体であるe-Educationの活動だけでなく、絶景スポットや社会を変えるグッドアイデアの紹介など、様々な切り口で途上国の魅力を紹介しています。例えば、「東南アジア 旅行」と検索するとこのトジョウエンジンが検索上位に出て、旅行が好きな方に私たちの団体を知ってもらえるようになります。
ただ、簡単にWEBメディアは作れるものではありません。発行人の三輪はトジョウエンジンを始める前に、個人のブログを立ち上げて毎日更新したエピソードを紹介し、小さく始めることの重要性していました。
「泥臭くコツコツ続けることが大切であり、NGOだからできることがある」
ブログを通じたマーケティングには時間がかかります。成果が出るまでに3年近い時間がかかるという難しさを紹介した上で、それでも引き続きブログを書き続けていく方針を最後に発表しました。
会場からの質問では、導入にかかるコストについて質問がありましたが、トジョウエンジンは運営団体のメンバーに加え、ボランティアの方々の無償の記事寄稿について説明がありました。ミッションに共感いただいた方が、ボランティアベースで記事を書いてもらう、これはNGO/NPOならではのマーケティング手法と言えるかもしれません。
【分科会3】クラウドファンディングで100万円以上の金額を集めるには?
NPO法人 ADRA Japan (アドラ・ジャパン) の山本さんとエイズ孤児支援NGO・PLAS代表の門田さんより発表がありました。いずれの団体もクラウドファンディングを通じて100万円以上を集められた成功事例になります。
それぞれどのような狙いやプロセスを経て成功に至ったのかプレゼンで紹介され、両団体に共通する成功のポイントは大きく分けて3つありました。
(1) 計画を練ること
どちらの団体もクラウドファンディングを活用する前に、他の成功事例を参考にしたり、資金調達のスピードや数値目標を設定されていました。ADRA Japanの山本さんはTHE BRIDGE(ザ・ブリッジ)の『クラウドファンディングプロジェクトを成功させるためのステップガイド10』という記事を参考にしたという紹介がありました。
(2) PDCAを何度も繰り返すこと
クラウドファンディングは簡単にお金が集まるサービスではありません。両団体とも計画通りお金が集まらず、小さなトライ&エラーを繰り返したそうです。NGO・ PLASではメール配信をする時も強気なメッセージと弱気なメッセージに分けるなど、細かなテストと分析を繰り返し、改善を重ねたことが成功へとつながりました。
(3) 最後まで諦めない(追い込み)
資金調達の成功か否かは最後の1週間で決まると言われています。実際、二つの団体はどちらも最後の1週間で大勢の支援者獲得に成功しました。上で紹介した計画やトライ&エラーを踏まえ、いかに効果的な施策を打つことができるかを突き詰められていました。
ADRA JapanとNGO・PLAS、二つの団体に共通していたことは、闇雲に資金調達をするのではなく、将来も活用できるようなナレッジを蓄えるために、一つ一つの取り組みの成果をしっかり分析されていることでした。
偶然ではなく、確信をもってクラウドファンディングを成功させるために、どんな取り組みが効果的であり、また逆に効果の少なかった取り組みは何なのか。二つの団体の取り組みは大変参考になるものでした。
【分科会4】NPOマーケティング導入にそびえ立つ壁
こちらの分科会ではNPOマーケティングプログラムで参加団体とともに6ヶ月間並走してきたコンサルタントの方たちに「6ヶ月のプログラムで最も難しかったこと」をテーマにお話を伺いました。
まず、CBすぎなみプラスを担当された舞原さんは、支援者獲得という団体の課題から団体内の内部マーケティングに課題をシフトすることが難しかったと語りました。
この課題はどの団体にもよくあることで、精力的に団体の活動にコミットできる人的リソースの不足がプログラムを通して明らかになったそうです。顧客と向き合う前に、まずは団体内の体制を整える大切さを考える機会となりました。
次に、ちょうふこどもねっとを担当した牛堂さん。こちらの団体では顧客のペルソナが複数あることがわかり、顧客像を把握することが難しかったそうです。
また、顧客が事業の卒業生ということもあり、比較的身近な人を対象にするのですが、普段から会っている人だからこそわかっているつもりになってしまっていたという課題もありました。しかし、顧客に関してヒアリングを十分行ったことで解決されたそうです。
わかっているつもりではなくて、しっかりと裏をとった情報が重要なのですね。
最後に日本トラベルヘルパー協会を担当していた大内さん。こちらの団体では顧客を個人から法人にシフトし、マーケティングの手法としてテレアポなどこれまで行ってこなかったことを導入しました。
団体とサポーターとの議論の中で、団体側が考えていた強みが実は強みでなかったり、行っていた手法が効率的ではないということがわかり、方針を変更しました。
しかし、自分たちの強みを改めて認識したことで解決への一歩を踏み出せたそうです。
これらの3人のコンサルのかたの話を聞いて共通していたのは「第3者の視点」ということ。自分たちだけで活動を進めていくとなかなか客観視する事が難しくなり、遠回りしてしまっていることもしばしば。しかし、団体外から第3者の視点で意見をもらうことでスムーズな運営が可能になるようです。
今回のフォーラムを通じて一貫して言われていたことは、仮説を立てて、PDCAを素早く何度も回していくことで、より顧客の視点に近づけるということです。
顧客からフィードバックをもらいつつ現場主義で顧客に寄り添う姿勢がとれるのはNPOの強みかもしれません。
ここでのマーケティングの学びを活かしながら活動をよりよいものへとしていきたいですね。
[photo:NPOサポートセンター]
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