こんにちは!e-Educationミンダナオ島プロジェクト担当の佐藤建明です。「教育開発」という夢を掲げ、フィリピンのミンダナオ島にて映像授業を活用した教育プロジェクトを展開しようと奮戦しております。
前回の記事では、現地の「自主性」をいかに喚起していくかということに四苦八苦しながら交渉を進めたことを書き綴りました。今回は、現地の大学生が新たに立ち上げた、映像授業を活用した教育プロジェクトをご紹介させていただけたらと思います。
水辺のジプシー「バッジャオ」
みなさんは「被差別民族」と聞いたときにどんなことを思い浮かべますか。日本では「えた・ひにん」、ヨーロッパでは「ロマ」(先日立ち上がったハンガリープロジェクトのメインターゲットです)などが挙げられるかと思います。
多民族・多言語国家であるフィリピンにも数々の民族が生活していますが、とりわけ日本から来た「外国人」である自分自身の注意を引く民族がいます。
それが、水辺のジプシーと呼ばれる「バッジャオ」です。
彼らの多くは、海辺や川辺にコミュニティを形成し、ボロ小屋で暮らしています。子どもたちは道路の真ん中で、埃まみれになりながら太鼓を叩いたり歌をうたって日銭を稼ぎます。
劣悪な環境下で生活
また観光客が多く訪れるような海辺や港では、観光客がフェリーの上から放り投げた小銭を、同じくフェリーの上から(かなりの高さです)海にダイブしてキャッチするというパフォーマンスもしています。
「バッジャオ」は彼ら特有の言語や文化を持つため、フィリピン社会から完全に隔離された被差別民族なのです。当然、彼らに公教育を受ける十分な機会はありません。
そのためバッジャオは、大人になってもフィリピン社会で正規の職を得ることができず、貧困・差別の「負の連鎖」が続くことになります。
立ち上がった現地の大学生
この水辺のジプシー「バッジャオ」に対して、なんと現地の大学生が、映像授業を活用した教育プロジェクトを立ち上げたのです。
その学生の名は、クリス。フィリピンでも指折りの名門大学アテネオ・セービア大学に通う教育学部の4年生です。彼女は、Kuya Fish Campaign(KFC)(Kuya Fish Campaign)という学生主体の災害ボランティアチームの現地リーダーを務めています。
とある日のミーティングの様子
僕自身も、KFCメンバーとは現地で頻繁に交流しており、何度も助けてもらいました。そして非常に興味深いのが、なんとこのKFCを立ち上げたのは日本の大学生なのです。
超巨大台風Sendongと1人の日本人学生
その学生とは、慶應大学3年の田中いっせい君です。
彼は、高校卒業後のギャップイヤーで、アフリカをはじめ様々な国で国際協力活動、また東日本大震災、タイの洪水被災地支援に関わってきたそう。その中で、2年前にカガヤンデオロ市を超巨大台風Sendongが直撃し、甚大な被害が出ているということをSNSを通じて知ったとのこと。
居ても立ってもいられなくなった彼は、早速1人現地に飛びましたが、そこで見たのは、大企業や世界経済への影響力が少ない地域ゆえか、甚大な被害にも関わらずなかなかメディアに注目されることがない現状。彼は早速、そのずば抜けた行動力とオープンで屈託のない人柄で、現地の大学生を巻き込み、災害ボランティアチームKFCを立ち上げたのです。
クリス(真ん中)、いっせい君(その左)とKFCメンバーらと
アツさんといっせいくん(カガヤンデオロにて)
KFCと聞くとなんだかケンタッキーを連想してしまいがちですが、この名前の由来も非常に魅力に富んでいます。
“Kuya Fish”とは現地語で「魚のお兄さん」という意味です。これには、孔子の有名な言葉である「貧しい人に対して、単に魚を与えるよりも釣り方を~」の考え・想いが込められています。
そして先ほど紹介したクリスは、現地に常駐出来ない田中いっせい君に代わり、KFCの現地リーダーとしてぐいぐい現地の大学生を引っ張りながら様々な活動を展開しています。
「バッジャオ」に教育機会を与える「B for Bプロジェクト」
ここで話を戻すと、このクリスが水辺のジプシー「バッジャオ」に対してはじめたのが「B for Bプロジェクト」です。
先ほど申し上げたように、バッジャオは彼ら固有の言語を話す上に、十分な公教育を受ける機会がありません。そのため公用語である英語はおろか、現地の主要言語であるビサヤ語も話すことができないのです。これが貧困・差別の「負の連鎖」を生む要因の一つとなっています。
そこでクリスは、「バッジャオのためのビサヤ語教育(B for B)を提供すること」を目的として、この「B for Bプロジェクト」を立ち上げたのでした。
授業内容としては、映像授業とインタラクティヴ授業をバランスよく織り交ぜたビサヤ語教育を、主にバッジャオの小学生に提供。講師は、バッジャオ語とビサヤ語の両言語を使うことができるチェチェ先生で、非常に教育熱心で献身的な方です。
従来、映像授業は、小学生には向かないと言われています。なぜなら集中力がすぐ切れてしまい、飽きてしまうからです。ところが、この「B for Bプロジェクト」で興味深いのは、アニメを作成・活用して生徒の興味を引きつけようというというものです。
日本とフィリピンの架け橋に
またKFCは日本人学生とフィリピン学生の交流キャンプツアーを定期的に展開しており、これまでに延べ100人以上の日本・韓国・タイ・アメリカの学生がカガヤンデオロを訪れ、地元の小学生にサマースクールを開催したり、仮設住宅の建設や農作業ボランティアなどに参加しました。
今年の夏も多くの日本人学生が応援に駆けつけてくるそうです。
こうした現地でのエネルギー溢れる取り組みは、僕にとっても大きな刺激となっています。そして、またお互いに協力しながら、より良いプロジェクトを作っていきたいです。
次回の記事では、ミンダナオ島プロジェクトが、現地の先生方とついにコンテンツ作成を開始したことについてお話できればと思います。本日もご愛読くださり、誠にありがとうございました!
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