「君は、人類史をどう変えたい?」
これは私が社会人1年目の夏に、上司から与えられた課題です。突然の、そしてあまりに大きな質問に困惑し、しばらく考える時間をもらいました。
「人類史を変える」と言われて、ピンとくる人は少ないでしょう。そもそも歴史を変えるとはどういうことなのか?一体誰の、どんな行為が歴史を変えたんでしょうか?
結局、前職を退職するまで質問の意図すら曖昧に理解したままでしたが、今e-Educationの活動を続けている中で、質問の輪郭と、それに対する暫定的な答えを持てるようになりました。
「中高生×映像教育支援で、国際協力の歴史を変える」
今回の記事では、私たちe-Educationが中高生×映像教育支援にこだわる理由についてご紹介したいと思います。
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あこがれの職場で感じた違和感
前職JICAは、私にとってあこがれの職場でした。日本の国際協力の中核を担うJICAの名前は、学生時代に私が旅した途上国で日本の代名詞となっており、国と国をつなぐ誇りある職場でした。
中でも、2回目の人事異動で私が赴任した人間開発部という教育を専門にした部署は、私が夢見た職場そのものであり、20代前半でありながら、途上国の教育省トップクラスの議論できる、本当にやりがいある場でした。
ただ、そんなあこがれの職場でも違和感を覚えたことが2つほどありました。
1つは組織構造について。JICAのウェブサイトに書かれている通り、JICAの教育担当部署は「基礎教育」「職業技術教育・訓練」「高等教育」に分かれていますが、「中等教育」を専門に扱う部署がありませんでした。
もっと踏み込んで調べてみると、中等教育分野における事業が少ないことが見えてきます。たとえば、高校生に対する教育支援の案件は、私が調べた限り1〜2件程度しか見つかりませんでした。
しかし、当然と言えば当然の話でもあります。もし私が途上国の教育大臣であったら、初等教育から順番にレベルを上げていく”ボトムアップ”のやり方か、国のトップを育てるために高等教育から改善していく”トップダウン”のやり方、このどちらかをきっと選ぶと思います。
でも、そうしたら一体誰が中等教育の課題を解決していくのでしょう?これこそが、あこがれの職場で感じた違和感の1つであり、国際協力のジレンマと呼ぶことにしました。
国際協力のジレンマ
2つ目の違和感、もう一つの国際協力のジレンマは「映像教育支援」にまつわる話です。
私はJICAに入る前からe-Educationの創業メンバーとして活動していたこともあり、社内勉強会をはじめとしたいくつかの場で、e-Educationの取り組みについて紹介する場を頂きました。
「このe-Educationの取り組み、映像教材を活用した教育支援が、JICAの活動の柱になることはないんでしょうか?」
思い切って上司や先輩職員に、こんな質問をぶつけてみたところ、「正直、厳しいと思う」という答えが返ってきました。
理由は大きく2つ。一つは、これまでJICAが築き上げてきた教育支援のモデルをすぐに変えることはできないということ。確かに、教員育成や学校運営改善は、国連や世界銀行など開発機関で働く人たちからも高い評価を受けており、日本にしかできない教育支援であるという理由は、納得のいくものでした。
もう一つの理由は、映像教育を活用した教育支援の成功モデルが不足していること。国際協力は国と国をつなぐ重要な事業であり、基本的には失敗が許されないものです。そんなリスクを発注側の先進国も、受注側の途上国も、受けることはおそらくないだろう。この理由も納得がいきました。
ただ、納得のいく理由があっても、違和感が消えるわけではありません。
「だとしたら、誰がこの分野で新しい歴史を作っていくんだろう?」
JICAのような公的開発機関では着手しにくく、民間企業でも事業化が難しい。課題の大きさも解決策の有効性もわからない。そんな領域で新しい“流れ”を作るのことができるのは、第三セクターと呼ばれるNGO/NPOではないか?
違和感を感じるたびに、e-Educationの事業の必要性を感じるようになりました。
「まだ早い」から始まる歴史への挑戦
「中等教育支援は“まだ早い”。初等教育において、もっと解決しなければならない課題が山ほどある」
「映像教育支援は“まだ早い”。パソコンが一台もないような学校で、どうやって映像教育支援をするんだ」
e-Educationの活動をはじめてから今まで、定期的にこのような問いをもらってきました。どちらも的確なコメントですが、どちらの言葉にもやはり違和感を覚えます。
「“まだ早い”が、“今”になったとき、一体誰が道を作るんだろう。その時のための準備を、一体誰がするんだろう」
「まだ」という以上、遅かれ早かれ「今」になる時はやってきます。例えばバングラデシュでは、初等教育の就学率は95%を超え、学校には400万台のPCを導入するという教育政策が動き出し、村の学校にも新品のパソコンやプロジェクターが置かれ始めています。
もちろん初等教育分野にもインフラ環境にも課題は残っていますが、確実に課題は小さくなりつつあり、同時に新しい課題が生まれ始めています。
中等教育分野ではどのような支援が必要なのか?パソコンやプロジェクターを学校でどう活用したらいいのか?
そんなテーマをもっと世に広めるために、私たちe-Educationは2015年9月に「第一回デジタル教育国際会議」というイベントをバングラデシュで開催しました。
ゲストスピーカーとして、教育大臣・ダッカ大学(日本でいう東京大学)学長、中央銀行総裁、など国の教育の未来を担うリーダーが一堂に集まり、新しい教育のカタチについて皆で考え合う場となりました。
私たちのような小さく若い組織が、国の中枢にいる人たちと真っ向から議論することができたのは、「まだ早い」と言われる分野に対して目をそらさず、歴史の針を進めるための挑戦をしてきたからだ。そう感じました。
歴史の針をあと10年早く進めるために
国際協力の分野には、大きく分けて2つの歴史が存在します。一つは協力をおこなう先進国側から見た歴史、そしてもう一つは協力を受ける途上国側から見た歴史です。
ここで一つ質問です。どちらの歴史の方が変化が激しく、スピードが早いでしょうか?
答えは、協力を受ける途上国側です。バングラデシュやフィリピンの貧しい村の子どもたちがFacebookで遊んでいる。こんな光景は、国際協力をおこなう先進国自身の歴史にも存在しなかったシーンでしょう。「まだ早い」なんて言葉が届く前に、インターネットは貧しい村でも日常の一部になりました。
このスピードに、果たして協力を行う側に立つ私たちはついていけているのか?e-Educationの活動を進めながら、歴史の針が思った以上に早く進んでいることを、ヒシヒシと感じるようになりました。
「“まだ早い”を疑い、10年先の国際協力を先取りする」
国際協力の歴史を変える、私たちなりの方法。それは「まだ早い」という言葉をヒントに、協力を受ける途上国側のスピードを一緒に感じ取りながら、未来の課題を先取って解決していくことです。
中高生に対する映像教育支援は、その第一歩です。「まだ早い」ために失敗することもあるでしょう。ただ、私たちの失敗は、必ずやってくる未来の礎になると確信しており、私たちはこの分野でもっと突き抜けていきます。
歴史に挑む仲間を探しています
私たちの挑戦は、おそらく歴史に名前が残るようなものではありません。
途上国であっても、中学生や高校生が当たり前に学校に行くようになり、インターネットを活用して最高の授業にどこからでもアクセスできる。そんな未来は、きっとやってきます。
ただ、そんな未来は「まだ早い」と言われており、私たちはそんな未来を今に近づけるために、歴史の針を早めるために挑戦しています。見過ごされがちな未来の課題と、まだここにない未来の解決策を、少しでも早く途上国の歴史の1ページに刻み込んでいきます。
そのためには仲間が必要であり、私たちe-Educationは今、共に歴史へ挑む仲間を探しています。少しでも関心のある方は、ぜひ募集内容をチェックしてみてください!
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